2017年6月19日、大統領就任1年目の文在寅大統領は、韓国最古の原発・古里原発1号機の運転停止記念式典で演説。ここで「脱原発」推進を宣言し、月城原発1号機の早期閉鎖にも言及した(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国で、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官と尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長の対立が激化していることは、先日もお伝えした。しかし、この対立の図式は、おぞましい政権の不正を隠蔽するためのカムフラージュだった可能性が強まってきた。真相は長官vs.総長ではなく、文在寅大統領vs.検察の構図であることが徐々に明らかになりつつあるのだ。

法務部次官の陰に隠れ、自らは手を下そうとしない大統領

 文大統領はこれまで、秋法務部長官と尹検事総長の対立に関し沈黙を守り続けてきたが、それもそろそろ終わりになりそうだ。検察の組織を挙げた抵抗、世論の反発、そして決定的なのは行政裁判所が職務停止命令の執行停止を求めていた尹総長の申し立てを認めたこと、および法務部監査委が尹総長に対する職務停止命令・懲戒請求・捜査依頼がすべて不適切だと議決したことにより、文大統領はこれまでのように秋長官の影に隠れていられなくなっている。

 いずれにせよ秋長官も尹総長も任命したのは文大統領である。しかも対立の発端となったのが文大統領の行動である。それでも直接手を下さない文大統領に対して「中央日報」は「卑怯だ」と痛烈に批判している。

「検事総長切り」の発端は月城原発廃炉を促す文大統領の発言

 12月1日の「朝鮮日報」は「月城原発1号機関係者逮捕方針の直後に尹総長排除、その翌日に産業部を表彰・・・偶然ではない」と題する社説で、法務部と検察対立のそもそもの発端が文大統領にあることを指摘している。

 月城原発1号機とは、韓国で2番目に造られた原発で、1982年に稼働を開始している。設計寿命の30年をすでに超えたが、7000億ウォンをかけて改修・補修され、稼働期間を2022年まで延長することが決定されていた。

 その方針を覆したのが、2017年に大統領となった文在寅氏だ。「脱原発」を志向する文大統領は、月城1号機の早期閉鎖を明言。それを受けるように、2018年に運営会社の理事会が早期閉鎖を決定、2019年12月には韓国の原理力安全委員会が閉鎖を決定した。