(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)
10月26日、菅首相が所信表明演説を行いました。そこでは長期的な目標として「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、脱炭素社会の実現を目指す」ということが表明されました。積極的な地球温暖化対策は大きな経済成長につながる、ということです。
温室効果ガスをゼロにするための方策としては、技術革新により省エネルギーと再生可能エネルギー導入の最大化を図り、安全最優先で原子力政策も進めていくとしています。しかしもちろん、温室効果ガスの排出ゼロの達成は、一朝一夕にできることではありません。
さらに所信表明では、縦割り行政の打破、行政のデジタル化、携帯電話料金の値下げ、不妊治療の保険適用など、これまでにも出ていた個別具体的な政策についても触れられました。この個別の政策課題については進展し、成果を出してくるものもあるでしょう。
しかし、筆者にはここでどうしてもある疑問が拭えません。コロナで相当に傷んでしまった日本経済が、長期的な環境対策や携帯電話料金の値下げ、行政のデジタル化で再び成長軌道に乗ることができるのか、という疑問です。もっと踏み込んで言うなら、菅政権の経済成長戦略が見えてこないのです。
規制改革で経済は回復するのか
安倍政権が掲げたアベノミクスは、よく「三本の矢」という言葉で説明されていました。まずは「大胆な金融政策」をし、次に「機動的な財政政策」を実施し、そして「民間投資を喚起する成長戦略」を実行に移すというものです。この最後の成長戦略のカギは主に規制緩和でした。
菅政権が現在考えている政策は、安倍政権でいうところの“三本目の矢”の成長戦略に当たります。実際、成長戦略会議を新たな司令塔の象徴として立ち上げました。そしてその中身としては、主に規制改革を意識しているように見えます。あたかも、安倍政権が放ち切れなかった「三本目の矢」、特に「岩盤規制にドリルで穴をあける」(安倍総理[当時])との主張をついに実現するんだ、と宣言しているようにも聞こえます。
そんなこともあり、菅政権発足から現在までの動きを見ていると、菅首相は、「規制改革推進会議」を実際の改革のコントロールタワーにしようとしているようです。10月7日には菅首相自身が規制改革会議に出席し、「近日中に全省庁で全ての行政手続きの見直し方針をまとめてほしい」と発破をかけました。規制改革会議は従来から大事な会議の一つではありましたが、安倍政権時代は、どちらかというとさほど注目を浴びていなかった存在です。その組織の尻を叩いて、改革のエンジンにしようと考えているようです。