連載「ニューノーマル時代の大学」の第11回。春から夏までの数カ月間、大学はほぼリモート教育に切り替わり、教師と学生はパソコンやスマホを介して向き合うようになった。専修大学商学部の渡邊隆彦准教授が大学の教育現場最前線から、学生、教師、事務職員を含む、ヒトと大学との新しい関係を解き明かす。「教育におけるDXは進めるべきだし、進めざるをえない」。EdTech(教育とテクノロジーの融合)の可能性と課題を考える、渡邊准教授の“最終講義”。

「リモート大学」と「新型リアルキャンパス大学」。

 前2回では、ニューノーマル時代の大学像として極端な2方向を提示しました(第9回第10回参照)。そのココロは、アフター・コロナ時代を迎えた時に、単に「復旧」しているだけでは、社会全体が悪戦苦闘したこの半年の稀有な経験を「ドブに捨てる」ようなものだと考えるからです。

 日本では、大規模な自然災害や新型コロナのような災厄があった場合、単なる復旧(旧に復する=以前とそっくりな状態に戻すこと)を目指しがちです。しかし、「復旧+変革」を成し遂げてこそ、災厄を奇貨として、そこから学んだことを活かして次なる危機に対してレジリエントな社会態勢をつくりあげたとはじめて言えるのではないでしょうか。

 この半年で「有無を言わさぬデジタル化」が曲りなりにも進んだのですから、大学に関しても、コロナが収束した際に元通りの「単純なリアル大学」に戻してしまうのは、いかにももったいないではありませんか。

なぜ教育におけるDXを進めるべきなのか

 私は、教育におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)をいっそう進めるべきだし、進めざるをえないと考えます。理由は以下の通りです。

①日本では自然災害が多発し、今後は新たな感染症拡大も予想されるが、いかなる時でも学びを止めないようにするためには、DXを活用して「教育の受け手・送り手双方が、時間と場所を柔軟に設定できる体制」を整えておくしかない。

②留学生の送り出し・受け入れを推進してクロスボーダーでの学生の往来を活性化させる、人生100年時代を見据えて社会人のリカレント教育(学び直し)に本腰を入れる、といった「政策」を進めるのであれば、現状の大学インフラでは不十分であり、DXで体制補強することが必要。

③コロナ禍を機にライフスタイルの多様化が進み、教育の受け手(学生)においても送り手(教員および職員)においても、首都圏への一極集中志向が弱まり、都市居住者と地方居住者にバラける可能性がある。その場合、少なくとも部分的にはDXを活用した教育が必要であろう。