(宮前 耕也:SMBC日興証券(株)日本担当シニアエコノミスト)
約50年ぶりの低水準だった百貨店売上高
個人消費の動向をいち早く捉えられる指標としては、3つの業界団体が公表する販売統計が役に立ちます。「百貨店売上高」「スーパー売上高」そして「コンビニ売上高」の各販売統計は、翌月の下旬頃に相次いで発表されます。これら3つの販売統計から判断すると、個人消費は緊急事態宣言が発令された4月頃を底として回復へ向かいましたが、7月にいったん落ち込んだということが分かります。
例えば、百貨店売上高の月ごとの変動をみてみましょう。近年、売上高は4000億円台から5000億円台で概ね推移しています。ですが、2020年の売上高は、新型コロナウイルス問題の影響が表れ始めた2月以降、急激に減少し、4月にはわずか1208億円にとどまりました。これは、単月としては1970年2月以来、約50年ぶりの低水準です。5月も1515億円にとどまりましたが、6月には3829億円へやや大きく増え、7月も3912億円へ増えています。
ここで、7月の評価には注意せねばなりません。単純に金額だけを比較すれば、7月の売上高は6月を上回っていますので回復方向にみえます。ただ、過去の売上高推移をみると、7月の売上高は6月を上回るのが「当たり前」で、むしろ例年に比べれば、今年6月から7月の増え方は物足りない状況です。7月の売上高が6月を上回りやすいのは、7月の日数が6月よりも1日多い、あるいは7月にお中元で食料品の販売が膨らむ、といった理由が考えられます。
6月から7月に売上高が増えやすい特徴、パターンのことを経済分析では「季節性」と呼びます。他にも季節性は存在します。例えば、12月は1年の中で最も売上高が大きくなりますが、冬物の衣料品の売れ行きが良くなるため、あるいはお歳暮や年末年始に備えた需要が膨らむため、といった理由が挙げられます。逆に、例年2月や8月は売上高が小さくなりやすく、これは冬物や夏物の衣料品の売れ行きが悪くなる、あるいは外出に不向きな天候のため客足が落ちる、といった理由が考えられます。