世間的には物価が上昇しているとの感覚を持っている向きが多いが、実際には9月のコアCPIが前年同月比でマイナスを記録したように、物価は下落している。感覚値のズレと物価が下落している理由、そして企業が恐れるデフレスパイラルの懸念について、SMBC日興証券で日本担当シニアエコノミストを務める宮前耕也氏が分析した。
(宮前耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)
一般の感覚は物価上昇だが・・・
消費税が10%へ引き上げられたこともあり、世間的には物価が上昇している、との感覚を持っている方が多いようです。日本銀行が全国の20歳以上の4000人を対象に、四半期に一度実施している「生活意識に関するアンケート調査」をみればよく分かります。今年9月に実施された調査によれば、現在の物価が1年前と比べて「上がった」と回答した人は66%に上り、およそ3分の2を占めています。物価が1年前と比べて何%変化したかを尋ねて集計した結果をみると、平均値では5.1%の上昇、中央値でみても3.0%の上昇でした。
ただ、実際の物価は、消費増税の影響を含めても低迷しています。一般に「物価」と言えば、総務省が公表する消費者物価指数(CPI)が信頼度の高い統計としてよく用いられます。主な財・サービスの価格を集計・加工した総合指数(総合CPI)をみると、2020年9月に前年同月比0.0%となっています。天候次第で変動しやすい生鮮食品の価格を除いた総合指数(コアCPI)でみれば、9月に前年同月比▲0.3%と下落しています。
CPI結果に基づき、内閣府は10月の「月例経済報告」で消費者物価を「横ばい」と判断しています。日本銀行も、9月の金融政策決定会合において、消費者物価を「0%程度」と判断しています。金融市場でも、物価が低迷していると認識されており、日本銀行が目標とする消費者物価2%増の達成までまだかなり遠いので、低金利政策は長期化する、との見方が大勢です。
以下、総合CPIではなく、コアCPIの前年同月比を「物価」とみなして、その推移をみていきましょう。