社会福祉法人「スマイリング・パーク」の理事長、山田一久は、低賃金で重労働という介護業界のイメージも打ち破った。驚くのは、離職率の低さだ。わずか3%にとどまる。全国平均16.2%(2017年度)を大幅に下回る。安定した就職先として定番の市役所にも引けを取らない。
どうしてこんな“離れ業”を実現できたのか。山田は振り返る。
「私たちも、かつては高い離職率で悩まされ、25%ほどだったのです。介護のニーズにこたえるどころか、サービス自体継続できるかどうか危機的な状況だった」
劇的な変化のきっかけは、ICT(情報通信技術)という。施設長を任された山田が2011年に本格導入した。狙いは、職員の事務作業の軽減だ。職員が高齢者の介護に集中するためには、不可欠だった。
「介護の現場は、やりがいをもって働けるような職場づくりを始める必要があります。そのためにはICTが大きな力となります」
定時の見回りがない理由
この施設の最大の特徴は、目には見えないところにある。パソコンやスマホに組み込まれた情報だ。
それは、職員の業務の隅々まで浸透している。老人ホームでは通常、職員は定時に見回りし、おむつを替えたりする。「ほほえみの園」は様相を異にする。必要に応じて職員が部屋に入る。
職員は定時の見回りから解放された。なぜそんなことが可能となったのか。その秘密は、入所者の部屋のベッドにある。マットレスの下にあるセンサーが入所者の情報を把握し、その情報は同時に、職員のスマホやパソコンにイラストで表示される。
「眠っている」、「横になっているけど寝ていない」、「ベッドで体を起こしている」、「ベッドを離れている」。さらには呼吸数などが、リアルタイムで伝えられる。