8月10日、香港警察によって逮捕された「民主の女神」周庭氏。写真は8月5日、デモ参加者を先導した罪などに問われた自身の裁判に出席した際のもの(写真:AP/アフロ)
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(舛添 要一:国際政治学者)

 米中関係が緊張している。香港の民主派の逮捕、アザー米厚生長官の台湾訪問で対立が頂点に達した感じである。この事態をどう読み解けばよいのだろうか。

 長期的には、アメリカと中国による世界の覇権争いである。現在のパックス・アメリカーナ(アメリカの平和)を死守しようとするアメリカと、それに替わり、パックス・シニカ(中国の平和)を樹立しようとする中国が、あらゆる分野で熾烈な戦いを展開しているのである。

中国が狙う世界一への「返り咲き」

 世界を支配する大国となるためには、軍事、経済、金融、科学技術、文化などあらゆる分野で世界をリードしなければならない。19世紀のパックス・ブリタニカ(イギリスの平和)から20世紀のパックス・アメリカーナを経て、中国は21世紀の覇者になろうという野望を抱いている。中華人民共和国建国100年の2049年には世界一になるのが、習近平の夢である。

 中国の観点からは、歴史上常にGDPでは中国が世界一だったのであり、列強に蚕食された19世紀後半からの150年は例外的な時期であった。そこで、21世紀になって、再度世界一に返り咲き、中華帝国を再興することを目指しているのである。GDPでは日本を抜いて、アメリカに次ぐ第二位にまで来ている。

 その「偉業」を成し遂げつつあるのは、中国共産党の指導の成果であり、それに異を唱えることは許さないというのが習近平の立場である。ところが、先進民主主義諸国、とりわけアメリカが独裁中国叩きの先頭に立っており、それには断固とした対応をとるという決意である。

 中国は、軍事力の強化に余念がなく、とくに海軍力を拡張させて、南シナ海、太平洋へと進出しようとしている。経済的には、アメリカと経済摩擦を繰り返し、アメリが制裁措置に出ると、すぐに対抗措置をとってきた。

 軍事や経済の根底にあるのは技術であり、先端技術分野での競争がアメリカによる中国企業への締め付けに繋がっている。8月13日、トランプ政権は、2018年に成立した国防権限法に基づいて、ファーウェイ、ZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジー5社の製品を使う企業に対して、アメリカ政府との取引を禁止する規則を施行した。

 アメリカから見れば、中国はアメリカなど先進民主主義諸国の技術を盗んでおり、またその技術を使ってさらに個人情報などを収集し、外交に利用しているというのである。TikTokを禁止しようという動きも、その一環である。

 通信や表現の自由という基本的人権を守るのが民主主義社会であり、先端技術を使ってそれに違反する行為を行うことは、民主主義の守護者であるアメリカは容認できないのである。