未感染者がウイルスへの抵抗力を持つ理由

 7月15日、著名科学誌の英『ネイチャー』の論文では、新型コロナ制圧に向けた興味深い研究結果が報告された。先に見た「抗体消失」の研究結果とは対照的に、長期にわたって維持されるT細胞にまつわる発見だ。免疫の仕組みはややこしいかもしれないが、今後の解決策を考えるときには重要だと考えるので紹介する。

 研究報告をしたシンガポール科学技術研究庁の研究グループは「執念の研究者」と言っていいかもしれない。2003年に香港で流行したSARSも含め、コロナウイルスにおける免疫の実態を継続的に検証してきたグループだからだ。

 この研究グループは、2016年に、SARS流行の11年後の時点で回復者の免疫を調べた研究結果を出した。そこでは、抗体が早期に消えるのに、肉弾攻撃を担う細胞の一つである「メモリーT細胞」が長持ちし、10年以上経っているのにSARSに反応できることを明らかにしている。コロナウイルスに対する免疫の実態を考える上では画期的で、現在のパンデミックの中でも幾度も他研究で引用されている。

 この7月に彼らが新たな研究で示したのは、新型コロナウイルスやSARSに感染したことのない人にも、新型コロナウイルスに反応可能なメモリーT細胞を持つことが多いという意外な結果だった。

 日本でも、類縁ウイルスに感染した経験があると、別のウイルスにも抵抗力を持つ「交差免疫」が話題に上っている。風邪の原因になるコロナウイルスとの関係が指摘される。ところが、シンガポールの研究から浮かび上がったのは、面白いことに、人のコロナウイルスではなく、むしろ動物の持つコロナウイルスだった。