インドネシア特有のタブー「SARA」

「民族(suku)」「宗教(agama)」「人種(ras)」「階層(antargolongan)」の4つがそれで、それぞれのインドネシア語の単語の最初の文字をとって「SARA(サラ)」と呼ばれている。

 民族はジャワ人、スンダ人、ダヤック人、アチェ人、ブギス人、バリ人などインドネシアに約300存在するといわれる民族で、それぞれに固有の文化、言語がある。

 宗教は国民の88%を占めるイスラム教徒、10%のキリスト教徒、1.7%のヒンズー教徒、0.7%の仏教徒などの各宗教。

 マレーシア系のインドネシア人にメラネシア系のパプア人、華僑の中国系インドネシ人、アラビア系インドネシア人などの「人種」。

 そしてインフォーマルセクター従事者や歴史的背景に基づく王族や貴族の末裔、財閥関係者のほか、かつて共産主義者として投獄、差別された思想政治犯関係者や農業・漁業従事者、さらに近年はLGBTなどの性的少数者なども含めた「階層」である。

 最近のインドネシアでは、イスラム教の宗教施設であるモスクにイスラム教が禁忌とする犬を連れて入ろうとした統合失調症の女性が拘束されたり、モスクのスピーカーから流れる音声がうるさいと文句を言った仏教徒の女性が逮捕されたりするなどの事件が起きているが、これらも一種のSARAに関わる問題といえる。

 さらに言うなら、2019年8月17日のインドネシア独立記念日にジャワ島スラバヤのパプア人大学生寮で起きたパプア人への差別発言事件は瞬く間に全国のパプア人による抗議運動に発展。パプア地方では運動が暴動へと過激化し、非パプア人の移民を含めた約40人が死亡する事件に発展した。これほど事態が過熱したのもSARAに触れる問題だったからだ。

 この時ジョコ・ウィドド大統領は、いち早く動き、差別発言の問題視と再発防止策の徹底、さらに治安部隊現地急派、パプア地方のインフラ整備拡充という「アメとムチ」による硬軟両面での対応に追われた。「この問題を放置すれば国家、民族の分断に発展する可能性がある」との焦燥感が、ジョコ・ウィドド大統領を突き動かしたといわれている。

 インドネシアでは、国是である「多様性の中の統一」を実現するためにも、異なる民族、宗教、人種、階層の間に横たわる問題は全て「触れてはならない問題」「あえて問題化すれば政治社会経済の混乱を招きかねない根の深い問題」と一般に理解されている。それが「SARA」なのである。