(柳原 三佳・ノンフィクション作家)
いま、個人の起業家が立ち上げた「クラウドファンディング」としては、驚異的な支援金を獲得している、あるプロジェクトが注目を集めています。
当初の目標金額は500万円でしたが、わずか4日でその金額を達成。第2目標として新たに設定した金額の1000万円も一気に達成し、支援者はすでに640人を超える勢いです。
プロジェクトの名は、『重度障害者の意思疎通を実現する、新しい伝達装置を開発したい!』(https://readyfor.jp/projects/chat)。
なぜ今、多くの人がこの「新しい伝達装置」を支援しているのか?
その理由と、支援者が置かれている切実な現実についてクラウドファンディングの発起人で、「アクセスエール株式会社」を設立したばかりの松尾光晴さん(54)にお話を伺いました。
重度障害者のための会話補助機「レッツ・チャット」開発秘話
――松尾さんは今年1月末でパナソニックを退社され、ご自身で新会社を立ち上げられたのですね。
松尾 はい。自分で独立し、新会社を立ち上げることとしました。
――私は、松尾さんの開発された「レッツ・チャット」という意思伝達装置のユーザーを取材させていただいたことがあります。交通事故で全身まひとなった被害者の女性が、この装置を使ってご主人と会話を取り戻されたのですが、唯一動くまぶたでまばたきをし、それを合図にご主人がスイッチを押して文字を綴ってく・・・、本当に感銘を受けました。まさに、言葉を失った当事者にとってはかけがえのない機器だと感じました。
松尾 富山のご夫妻ですね。私もスイッチの調整などで何度か伺いました。このご夫婦については柳原さんが『巻子の言霊』という本を執筆され、NHKでドラマにもなり大きな反響がありました。
――被害者の巻子さんは、事故から約2年半の間、意識はないと判断されていたのですが、ご主人があきらめずに「レッツ・チャット」を使い始めたところ、しっかりとした文章を綴られました。実は、脳機能には全く異常がなかったのです。本当に驚きました。この装置がなかったら、どうなっていたかと・・・。
松尾 本当にそうですね。巻子さんのことは、クラウドファンディングのコーナーでも紹介させていただきました。