円陣スペースエンジニアリングが目指すもの
なぜ、宇宙にモノを運ぶことに? 話は2005年ごろにさかのぼる。
当時、久留米市近郊の中小製造企業の若手経営者が集まって、「何か面白いことをやろう!」と交流団体「円陣」が立ち上がった。背景には不況が長引き、廃業する会社も出始め、新しいことに挑戦しなければという危機感があった。「東京で展示会をして九州に仕事を引っ張ってくるにはどうしたらいいか」と議論し、ロボットや自動車を検討するものの、競合相手が大勢いるし、何より後発では面白くない。
転機が訪れたのは2007年。九州大学で行われた宇宙ビジネスの講演会に、フッ素樹脂コーティング業「睦美化成」の當房睦仁社長が参加。宇宙開発を産業にしようという話に「円陣も入れて」と手をあげる。九州大学の教授から、大学に製造部門がなくモノづくりが難しい現状を聞き、大学と「円陣」が組めば互いにメリットがあることを知り、目標を宇宙に据えた。
「円陣」内に宇宙開発チームを立ち上げ、2012年にはNPO法人・円陣スペースエンジニアリングチーム(e-SET)を設立。2014年に打ち上げられた九州大学を中心にQPS研究所も参画して開発した衛星「QSAT-EOS」の試験用構体、学生サークルが開発したロケットの分離機構開発など実績を積み上げている。
メンバーは12社。精密機械加工、熱処理、ゴム屋、表面処理などそれぞれ得意分野がはっきりしている。「さらに自分たちでできないことは、できる人の力を借りる『架け橋』の役割もある」(當房さん)。議論がうまくいかない場合の調整も含め、アイデアを形にするプロデューサー的な役割も担う。
今回打ち上げられた「イザナギ」でも、e-SETは大事なパーツで新たな『架け橋』を築いた。直径3.6mのアンテナに使われた金属メッシュの縫製だ。0.1mm以下の細い線材を編み上げなければならず、小さく畳んだ状態から展開する際に破れる可能性が懸念された。特殊で高度な技術が必要であり、あちこち探し回った末に、高級車用シートなどを縫製する福岡県大川市のカネクラ加工に行きつく。
「ご相談に伺って『やってみますか?』と聞くと、快く『ぜひ』と。直径3.6mのアンテナのハーフサイズから始めて展開テストを重ねたところ、見事に要求性能をクリアされました」(當房さん)