無理だと思うと思考が停止する

2号機は打ち上げ後に太陽電池パネルが開いて10面になる。説明するオガワ機工の伊藤慎二副社長。

 衛星開発で難しい点は?

 伊藤さんによると、宇宙という極限環境でも絶対に壊れないメカを作らないといけない点。「ロケットで打ち上げるときも、宇宙にいる間も壊れずちゃんと動くものを作るのが僕たちの仕事です」。

 具体的にどんな条件が彼らを苦しめたのか。「-100℃から100℃以上の熱変化、ロケットで打ち上げる際の約10Gの振動。剛性を上げつつ、軽量化を実現しないといけないところが一番難しい」。

 なぜ軽く作らないといけないかと言えば、重くなればなるほど輸送費が高くなるから。ロケットで宇宙にモノを運ぶ際、1kgあたり数百万円のコストがかかる。コストを考えればできる限り軽くしたい。しかも壊れないように。そのせめぎ合いに設計者は頭を悩ますことになる。

 さらに、いったん打ち上げたら修理に行けないことも宇宙特有の難しさだ。地上で徹底的に問題点をつぶす必要があり、試験用モデルを作ってテストする。「解析もしますが、一番いいのは実際に試験をやってみること。初号機は5~6回振動試験を繰り返しました。最初はボルトが緩んだり、ちょっとした部品が壊れたり。やってみないと分からないことがあります」

 何万点もの部品のうち、小さなねじひとつの不具合で全体が失敗する世界。すべてに百発百中が求められる。「例えばアンテナが開かなかったら衛星は役に立たない。何回も何回もテストして本当にこれでいいのかを突き詰める。失敗も山ほどしましたが、無理だと思うと思考が停止する。失敗するたび『この方法ではだめなことが分かった!』と前向きにとらえるしかない(笑)」(伊藤さん)

 そもそもオガワ機工は、FA(Factory Automation)機械を作る会社。従業員は25人。重工業からお菓子屋さんまで、さまざまな「物を運ぶ」会社である。工場内には「便利をつくる。ひとつから考える」という会社のスローガンが掲げられている。

「牛乳パックを整列させて箱詰めする機械を作ってほしいとか、製品を2階に上げる機械がほしいとか、漠然としたオーダーを形にしてきました」。課題を整理するために、クライアントの話をよく聞くとシンプルな作業で解決できると分かり、「1000万円の仕事だったはずが5万円ぐらいになったこともあった」と伊藤副社長は笑う。売り上げより顧客の立場に立ち、ゼロからのモノづくりが大好きなことが伝わってくる。