動けない植物がとった「動物を利用する」繁殖戦略

生物進化を食べる(第9話)被子植物と果実篇

2019.12.27(Fri)大平 万里

自分を魅力的にして動物に花粉を運んでもらう

 しかし、そんな動物と植物との攻防も、中生代の後半になると様相が変わってくる。

 種子をつくるためには原則として「受粉」が起こらないといけない。裸子植物の多くは、その花粉を風によって拡散させていた。ただし「風任せ」は不確定なので、なるべく大量に花粉をつくらないといけない。春先のスギ花粉で苦労している人であれば、大いに実感していることだろう。

 ところが、その花粉を動物に運んでもらおうと画策する植物が中生代白亜紀に台頭してくるのである。「被子植物」である。運んでもらう動物としては昆虫が最も多いが、鳥類や哺乳類もいる。訪れた動物に花粉を付着させ、別の植物体へ運んでもらい、より広範囲に確実に子孫を残すという戦略に転換したのだ。

 しかし、動物にとっても何か魅力がないと、わざわざ花粉まみれになりにくる必然がない。そこで進化してきたのが「花」という器官である。遠くからでも目立つ大きな花弁をつけ、色、香り、はては蜜まで備えて、動物を誘惑する手管を用意していったのだ。たとえるなら、それまでは適当にチラシをその辺にばらまいてきたのが、ティッシュを配りながら積極的に勧誘の声掛けを始めたようなものである。

 最も古いタイプの身近な被子植物はモクレンの仲間である。原始的ではあるものの、モクレンの立派な花は、香りも強く、いかにも花らしい雰囲気をもっている。そして、昆虫によって花粉を運んでもらう虫媒花でもある。

モクレン。春に花を咲かせる。

 虫媒花は白亜紀から急速に多様化し、特定の動物に的を絞った“ターゲット・マーケティング”のような戦略を推し進める種も登場した。その結果、昆虫の口吻の形が花の形態と呼応するような例が多くみられるようになった。

 この流れをみると、昆虫と植物が互いに影響を受け合って共進化したとしか見えないように思える。子どものころにサルビアの蜜を吸った経験のある人もいることだろうが、あればヒトのためにつくっているのでなく、ハナバチなどの花粉媒介者に来てもらうために準備された蜜および形態なのである。

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