顕微鏡写真で見るコウジカビ。日本酒づくりには欠かせない。

 私たちが日ごろ食べているもののほとんどは生物である。そして、多くの食材の直系の祖先は私たち人類より先に地球上に現れている。なぜヒトは「その食材」を食べることになったのか。その疑問を解くカギは、この地球上でヒトと生物がたどった進化にある。ふだん何気なく食べているさまざまな食材を、これまでにない「進化の視点」で追っていく。それぞれの食材に隠された生物進化のドラマとは・・・。

第1話:シアノバクテリア篇「イシクラゲは27億年の生物史が詰まった味だった」
第2話:棘皮動物篇「昆虫よりもウニのほうがヒトに近い生物である理由」
第3話:軟体動物篇「眼も心臓も、イカの体は驚くほどハイスペックだった」
第4話:節足動物篇「殻の脱皮で巨大化へ、生存競争に勝ったエビとカニ」
第5話:魚類篇「ヌタウナギからサメへ、太古の海が育んだ魚類の進化」
第6話:シダ植物篇「わらび餅と石炭、古生代が生んだ『黒い貴重品』」
第7話:鳥類篇「殻が固い鶏の卵は、恐竜から受け継いだものだった」

 古い町並みをぶらぶらしていると、趣のある建物の軒先に、直径40〜70cm程度のきれいな球体が吊るされていることがある。日本酒が好きな人ならご存知かと思うが、その球体は日本酒の醸造所にある「杉玉(すぎだま)」もしくは「酒林(さかばやし)」とよばれるものだ。

 2月ごろ、杉の葉を球形に整形して作られ、その酒蔵で新酒ができたことを伝える。秋の酒「ひやおろし」が出荷されるころには、杉玉はすっかり茶色になっており、次の年の仕込みが始まる。

杉玉。「酒の神」を奉る大神神社(奈良県)の神木が杉であることからつくられたともいわれる。

餌を採りに行かず、寄生して生きていく

 日本酒を作るには微生物の存在が欠かせない。その主役は「真菌類」とよばれる生物群だ。「菌」という語がついているが、真菌類はバクテリアなどとは異なり、植物よりも動物に近い存在である。動物の祖先からは、9億年以上前の先カンブリア時代に枝分かれしたらしい。

 真菌類が動物と共通する点は、光合成ができない生物であることだ。光合成ができないため、どちらも他の生物がつくった有機物を必要とする。