私たちが日ごろ食べているもののほとんどは生物である。そして、多くの食材の直系の祖先は私たち人類より先に地球上に現れている。なぜヒトは「その食材」を食べることになったのか。その疑問を解くカギは、この地球上でヒトと生物がたどった進化にある。ふだん何気なく食べているさまざまな食材を、これまでにない「進化の視点」で追っていく。それぞれの食材に隠された生物進化のドラマとは・・・。
第1話:シアノバクテリア篇「イシクラゲは27億年の生物史が詰まった味だった」
第2話:棘皮動物篇「昆虫よりもウニのほうがヒトに近い生物である理由」
第3話:軟体動物篇「眼も心臓も、イカの体は驚くほどハイスペックだった」
第4話:節足動物篇「殻の脱皮で巨大化へ、生存競争に勝ったエビとカニ」
第5話:魚類篇「ヌタウナギからサメへ、太古の海が育んだ魚類の進化」
第6話:シダ植物篇「わらび餅と石炭、古生代が生んだ『黒い貴重品』」
「鶏が先か卵が先か」は、因果関係を論じるときの定番の命題である。たとえば、「食べ続けるから肥満になるのか、肥満だから食べないとやっていけないのか」は、どちらが正解なのか本当のところはよく分からない。単なる言葉遊びと捉える人も中にはいるが、私たちが日々やっていることには時として手段が目的化することもある。ときおり立ち止まって考えることは無意味ではない。
ただし、鶏と卵の命題は、進化の観点からすれば結論は明確で、「卵が先」に決まっているのである。鶏の祖先のひとつは東南アジアに生息しているセキショクヤケイといわれている。セキショクヤケイもまた卵から産まれる。そして、数千年前、ヒトはセキショクヤケイを飼うようになり、現在の鶏へと品種改良していったと考えられている。つまり、初めに鶏がいたのでなく、徐々に鶏へと変わってゆくセキショクヤケイの、その卵が初めにあったのである。
それでは、セキショクヤケイの祖先の卵はどうやってこの世界に生じたのだろうか。
胚を守る「膜」の存在が、陸上での産卵をもたらした
話は約3億2000万年前の石炭紀にまでさかのぼる。
両生類はすでに陸上へと進出していたものの、石炭紀になっても水辺から離れることがなかなかできなかったと考えられている。体表の乾燥への対応がまだ不十分だったという理由もあるが、「卵を陸上に産む」という冒険に踏み切れる種は多くなかったのである。