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 日本人の2人に1人ががんに罹患し、そのうち3人に1人ががんによって死亡する。しかし、さまざまな治療の進化によって、がん患者の半数以上が10年後も生存している。

 がんと告知された時に10年後を想像するのは難しいだろうが、現実に「がん後」を生きること――「がんサバイバーシップ」は増えている。中でも、AYA(Adolescent&Young Adult=思春期・若年成人)世代といわれる15歳から39歳がん患者は、日本では2万人ほどいる。がん患者全体の1~3%の稀なケースだが、この世代の「がんサバイバーシップ」は特に長くなる。(AYA世代のがんとくらしサポートより)

 実は筆者もAYAがんのサバイバーで、30代の6年ほどを治療に費やした。罹患から10年を超えてようやく人並みの健康を得るようになったが、そこで直面するのが、加齢による健康問題だ。具体的には、普通の人であれば当たり前に迎える生活習慣病や更年期といったステージで、他の人と違った症状が出たりするのだ。こうした状況に、がんサバイバーは戸惑い、大きな不安を抱えている。

 がんの治療が終了した後には、どんな影響が出てくるのだろうか。またQOL(生活の質)をよりよく保つためにどんな対策が必要になるのか。AYA世代の乳がんをベースに、サバイバーの抱える不安や疾患リスクについて、国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科の下井辰徳医師に聞いた。(聞き手・構成:坂元希美)

ホルモン療法の副作用はけっこうつらい

――女性でもっとも多いのが乳がんですが、10年後の相対生存率(がん以外の死因による死亡などの影響を取り除いたもの)は79.3%と比較的「予後のいい」がんと言えます。ただ、ホルモン受容性の乳がんでは女性ホルモンががんの増殖に影響しているため、分泌や働きを妨げる「ホルモン療法」を標準治療として行いますが、この治療が5~10年と長期にわたり、その間にさまざまなつらい症状が出るために患者のQOLはかなり下がるというのが、経験してみて感じたことでした。治療のためにはがまんするしかないのでしょうか。

下井辰徳氏(以下、下井) 10月に「Annals of Oncology」という学術誌で、乳がん手術後の患者さんの治療で、何が患者さんのQOL低下に関わるかを経時的に見た研究が発表されました。その中では手術や抗がん剤治療などによるQOLの低下は一時的なものにとどまるが、ホルモン療法は長期間にわたるためにQOLが下がり続けていくと指摘されています。ホルモン療法は副作用も少なくて効果のある標準治療ですし、私も患者さんたちに乳がんのリスクを下げていく大事な治療だという説明をします。しかし、治療中のQOLが下がり続けること、終了後も更年期症状が強く出ることなどから、長期間の治療はかなり患者さんの負担になっているのではないかと、専門家も考え始めています。

 閉経前の乳がん治療で多く用いられるタモキシフェンによる副作用では、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、発汗など)を経験する人が79.8%、不眠は46.3%、筋肉や骨・関節の痛みは69%に現れます。これは無視できない副作用で、QOLを下げることにつながっています。

国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 下井辰徳医師(撮影:URARA)