――実体験から言わせてもらえば、私はホルモン治療中も、更年期症状が出ている現在も関節痛がひどくてつらいのですが、痛いことが再発リスクの少なさの現れなら、調整しながらがんばろう・・・というモチベーションが湧きますね。

下井 つらい症状は一生続かないことが多いです。閉経前の治療で症状が出た人は、閉経後は痛みが減っていくというデータはありますし、閉経後はだいたい1年ぐらいきつい状態が続いた後に減少していくことが多いので、いちばんつらい時期をどうやり過ごすかという視点も重要になりますね。

看護師や薬剤師も頼れる医療者

――痛みやつらさがどれぐらい耐えられないのか、生活に影響しているかは、限られた診察時間で医師に尋ねるのが難しく感じます。そういった相談は看護師さんにお願いしたほうがいいのでしょうか。

下井 生活面のケアや実際の症状については看護師や薬剤師など、さまざまな医療者のサポートを受けることが大事ですね。副作用や効果について医師が一度説明しただけでは患者さんは覚えられないでしょうし、時間をおいて出てくる症状もあります。そういったフォローは看護師や薬剤師が適している場合もあります。国立がん研究センターでは、電話相談の窓口で看護師などが対応することもありますよ。

下井辰徳医師(撮影:URARA)

「通常の治療はできません」と言われたら

――寛解後のがんサバイバーは通常の加齢による更年期症状が現れた時に、普通の人たちと同じように婦人科を受診して、病歴を話すと「通常の治療はできません」と言われてしまうことがあります。こういう場合はがんの主治医に診察してもらう方がいいのでしょうか。

下井 更年期症状の治療は、やはり婦人科が専門にしていることですから、婦人科の受診がいいと思います。ただ、婦人科の先生にとって乳がんは専門外なので、「できません」という答えになってしまい、患者さんが不安になることがあるのでしょうね。その際には自分のがんの病歴や、使っては困る薬の情報を持っていくことが大事です。

 私は希少がんセンターという部署にも所属しており、他の病院では診療経験がないと言われていらっしゃる、稀ながん患者さんがいらっしゃいます。でも、ここは希少がん患者さんにとって最後の砦ですから、「できません」とは言えません。仮に私が診療したことがない疾患であったとしても、がん診療の原則に基づいて診療が可能ですし、さらには診療したことがある他の医師の意見を聞きながら、治療を考えていくこともあります。

 また遠方に住む希少がん患者さんがこちらに通えず地元で治療を受けるという場合、地元の病院に「診たことがないからできません」と言われることがあります。しかし、治療の体系や考え方を伝えると、その病院や医師が「できる範囲」との共通点を探してバトンタッチできることも多いのです。こういった経験は先ほどの乳がん治療に対する治療中の患者さんを婦人科にご紹介する場合にも応用できると感じています。

 その際には、「乳がんの既往があるから寛解後の更年期症状について対応できない」という返答が来る前に、気を付けるべきポイントをお伝えして、婦人科の先生の可能な範囲でお願いすることで、対応していただけることが多いと感じています。医師同士や医師と患者さんによる情報提供のコミュニケーションが鍵になると思います。

――そうであれば、患者も「できません」と言われた時に「見放された」とショックを受けて去るのではなく、踏み込んで対話をしていくことが重要ですね。「見放された」と感じると、病院から離れて敷居が低いサプリメントや民間療法に流れていきそうになります。

下井 私は代替療法などは、全否定はしないようにしていますけれど、「騙すつもりで売る業者が多いですよ」と患者さんに伝えています。手術や化学療法など今の時点で最良である標準治療を受ける前に代替療法などを選んだ患者さんの生存成績がよくないというデータがありますし、標準治療と併用した場合でも成績が落ちることが多いのです。治療効果を落としてしまうものが含まれていることを知らずに摂取する場合もあるので、医師としてはできるだけ止めていただきたい。どうしてもやりたいのであれば、一度見せていただきたいのですね。

 以前、海外製の漢方薬を使いたいという患者さんが見せてくれたものを調べたら、漢方薬に抗がん剤を混ぜたものでした。知らずに使うと標準治療でも副作用が強く出たり、効果が出ない可能性もあるので、代替治療といえども怖いものがありうるのです。

 治療が終了したサバイバーも、がんの再発リスクを考えるなど健常な人とは区別して考えたほうがよいこともありますから、民間療法や代替医療を試したいと思った時は、できるだけ医師に相談してほしいと思います。