「治るがん患者」が増えると「サバイバーシップ」が重要に

――10年後も生きていくがんサバイバーは増えています。あたりまえの加齢による病気や再発のリスクを抱えながら生きていく中で、どうQOLを確保するかという問題は増えていくと思うのですが。

下井 「がんサバイバーシップ」と呼ばれ、現在イギリスやアメリカでホットな話題です。「治るがん患者」は治療の後遺症を抱えて生活していくことも多く、がんサバイバーの数は日本でも増えています。特にAYA世代での血液がんや乳がん、胚細胞腫瘍・性腺腫瘍(精巣腫瘍)の患者さんは、その後の長い人生で抗がん剤治療やホルモン治療による後遺症に悩まされます。ホルモン療法後に更年期症状が早く出てきて長く苦しむケースや、抗がん剤による二次発がんもあります。また、比較的大量の抗がん剤を20代で使用した患者さんは高血圧や心筋梗塞、脳卒中といった生活習慣病が早く出てきます。普通の人が50代、60代で出てくる疾患が40代くらいで出現し、起きる頻度も高くなります。

 5~10年でがん自体は治ったという区切りがつけられても、その後の長い人生を普通より高いリスクを背負って生きていくことになるので、AYAがんのサバイバーは、生活習慣病を普通の人よりもしっかりチェックしていく必要があります。

――なぜイギリスやアメリカで「がんサバイバーシップ」が重要視されるのでしょうか。

下井 イギリスでは、がん治療は専門病院でやりますが、その後はプライマリケアという地元の医師が担うので、そのスムーズな移行と連携が必要になるのです。日本ではその連携がまだうまくできていないので、がん経験者はあまり診たくないという開業医や地域の医師もいるかもしれません。しかし、がん専門医が治療終了後もずっと診ていくとなるとパンクしてしまいますから、総合診療を行う開業医がサバイバーたちのケアに参加してもらえるような連携が必要なフェーズに来ていると思います。

――がんの治療終了後、主治医から「あとは普通の人と同じように健診を受けたり、町の医者にかかってください」と言われても、AYA世代はライフステージによって引っ越しなどの移動も多いですし、新しい医院でいちいち病歴を説明するのがつらいこともあります。医療の中で引き継ぎや連携をとるための方策はとられているのでしょうか。

下井 がん専門医である私たちはAYAがんのサバイバーにリスクが出るということは伝えていますが、受け皿となる開業医や地域の医師との連携は、現在はまだ十分ではありません。しかし、開業医や地域の医師にも、がんサバイバーに対する知識やスキルを身につけてもらえばよい連携ができるはずです。そして経過中に何か少しでもがんに関わることが疑われれば、がん専門医に再度相談するという風通しの良い関係が理想ですね。

 患者さんも大きな病院で長い通院や待ち時間をかけるよりも、近所のお医者さんで診てもらう安心感があるでしょうから、医療者と患者さん、双方にメリットのあることです。そうやってがんの治療中やその後の情報をうまく共有して、自分の暮らす地域で患者さんとその家族、医療者が生活していけるといいと思います。そのための情報共有や教育、啓蒙のあり方を医療者も患者さんも考えていくことが必要ですね。