カワイイ女囚も時にはヤマ返します

 工場の中には、いくつかの班があります。それらは、担当台からみて複数の集団に分かれています。ある日、近くの役席の子(女性から見ても可愛い子で、シャバでは縦ロールの髪をなびかせ、白鳥麗子のような気品ある子でした)が、「私ね、隣の班にどうしても許せん奴がおるから、ヤマ返してきます」と言いおいて、挙手。担当に「トイレ行かしてください」と言いました。

 彼女はトイレ行く振りをして、こっそりと隣の班に近づきました。担当が気づく頃には「パコーン」という小気味よい音がしました。自分の履いていた靴を脱いで、相手の頭を叩いたのですね。

 早速、担当が私の席に来て「お前知ってたん違うか」と詰問します。靴で頭叩いた子が席を立った後に、私がそちらを見たというのです。「私も催したので、トイレのランプ確認しただけです(トイレ使用中はランプが点灯する)」と言いましたが、なかなか信用してくれません。終いには「うっさいな」と思わず口にしてしまいました。懲罰は私に何の効果もありません。担当もそれは知っていますから、強気なものでした。

(写真はイメージです)

善行も災いする刑務所の理不尽

 私の善行が災いした事件も記憶しています。工場で私の仲良しだったオナベ(担当を殴ったオナベとは別人)が、口の端のアカギレに悩んでおり「姐さん、これ一向に治らんのですよ。先生は薬もくれんし」とこぼしていました。医務官の巡回時にも、彼女は薬をくれるよう訴えていましたが、「なんや、そんくらい大丈夫や」と相手にされません(彼女は官に嫌われていたようです)。

 あまりに可哀そうだったので、私が貰っていた「フルコート軟膏」を、休憩時間にこっそり渡しました。これを後ろのオバア3人組のひとりに見られてチンコロされました。「この私をチンコロするか、誰か知らんがいい度胸してんな」と腹立ちましたが、結局、3人の内の誰がしたのか特定できませんでした。

 この事件の懲罰審査会では、官から「お前が使った薬を勝手に人にやるな。ましてやチューブの薬や、汚いだろうが」と嗜められましたが、「かわいそうだから助けただけやんか」としか返しませんでした。「汚い」と言われたことにはムカッとしましたが。

女子刑務所は老人ホーム

 女子刑務所というと、男性諸氏は妄想を膨らませるかもしれませんが、実態は老人ホームです。おしめしている女性は結構居ます。幅20センチ程の官支給の四角いおしめですから、腰の部分のゴムもありません。パンツは老いも若きもグンゼのパンツですから、おしめをすると『火垂るの墓』のセッちゃんみたいになります。