ほかにこんなこともありました。刑務所の中も高齢化が進んでいますから、尿漏れのオバさんを、同房者がヨゴレ的に扱うのですね。ただでさえ刑務所入って惨めな思いをしているのです。自分がイジメられる立場やったら、情けなくて悲しくて堪ったものではないでしょう。たとえば、洗濯ものを、その人の分だけ一緒にしないとか、干す際は当番ではなく本人にさせる、あからさまに嫌悪の目を向けて差別します。「あんたら、なんしてんねん。私、そんなの見たらムッチャ気分わるいわ」言うて、改めさせたこともありました。

 あるいは、手が水虫(初めて見ました)の人が居たのですが、みな気持ち悪がり「あんた、食器触らんというて、伝染ったらかなわんわ」とか言って、イジメます。これも、「関係ないやろ、あんたがそないに言われたらどない思うんや。好きで水虫なったんとちゃうやろ」とヤマ返したこともありましたっけ。

「私、ファンなんです」

 こんなことばかりしていると、はじめは「こいつなんやのん、ベベ(新人)のくせして」と、反抗する人もいましたが、私の態度が変わらないからでしょうか、やがてそうしたことはなくなりました。

 閉口したのは、自分のロッカー開けたら、未使用のセッケンが「よければ使ってください」というメモと一緒に入っていたり、中学校の靴箱ではありませんが「私、亜弓さんのファンなんです」という内容の手紙や、プレゼントが入っていたりしたことです。これは、複雑な気持ちでしたが、嬉しかったです。

 食事の時も、おばばたちが、こっそり私の好きなものをくれます(本来は、不正配食として禁止されている行為)。古い受刑者から、「亜弓・・・あんた、本当に初めてか。どう見ても初入に見えんわ」と言われたものです。

女子刑務所の地位は、腕力と度胸で決まる

 面白かったのが、大人になっても中学時代と変わらないことです。私に不満が溜まっている同じ工場の女が、業界の姐さんにチンコロして、私を力で抑え込もうとしました。

 ある日、運動の時間に「ちょっと顔貸してんか」と、配下の手先が呼びにきました。運動場の片隅に行くと、取り巻きのなかに業界人らしいボス姐が居ます。私にメンチを切りながら「あんたか、新入りのくせに態度でかい女は」と、初手から喧嘩姿勢でイキってきます。私は、そいつの目をまともに見ながら「何なん、それがあんたに何の関係があるの」とシンプルに逆質問しますと、しばらく睨み合った末に、捨て台詞のようなものを残してボス姐は去っていきました。

 私も喧嘩の場数を踏んできた人間です。相手の目を見たら分かります。目が踊っている人や、オンドレ、スンドレ言いながら浪花節を語る者に大した人はいません。その姐さんもそれは分かったようです。