一方、「宇宙×防災食」は、宇宙開発そのものにも貢献することも期待される。現在、宇宙日本食は34品目のメニューがそろえられていて、各国の宇宙飛行士に好評であるものの、正式なメニュー(標準食)ではない。日本人宇宙飛行士が滞在する時のボーナス食という位置づけだ。

「アメリカやロシアが提供する標準食に日本食を加えることは、JAXA担当者の夢です。日本食を世界の宇宙飛行士に食べてほしい。宇宙日本食で100~150種類近くのメニューまでバラエティを増やしたいと考えています。そのためには宇宙日本食の取り組みに、さまざまな方々に入ってもらう必要があるのです。
 しかし、宇宙日本食は食品衛生などの基準が非常に厳しく、製造ラインを別に設けている企業もあります。その点、ワンテーブルさんは宇宙日本食の認証を視野に入れ設計した環境と充填技術を持っているので、将来的には宇宙日本食初のハブ工場にもなりうると考えています」(菊池さん)

 LIFE STOCKの中身もさまざまに進化可能だ。

「たとえば、地元の桃やリンゴを使うなど、自治体の作物で味を作ったり、地元の名シェフとコラボレーションして、一流レストランに行ったようにリッチで楽しい気分で非常事態を乗り越えることもできます」

 2019年10月25日には、福島県伊達郡国見町がBOSAI SPACE PROJECTに参画することを発表。同町の特産のモモを使った備蓄食品開発や商品化などを行う。

たとえば「ムーンショット味」なんてものも。(画像提供:ワンテーブル)

1億2000万の命を守りたい

 さまざまな分野に活用できそうな防災ゼリー。しかし、島田さんは「災害が頻発する日本で、まずは1億2千万人の国民の命を守ることが本丸です」と原点を忘れない。

 災害列島・日本では地震や水害が頻発するが、過去の経験がモノやサービスとして残されていないことにも、課題を感じているという。防災はどこまでどうやればいいのか、明確な基準や方法論もない。そこでJAXAとワンテーブルは「未来の防災のあり方検討会合」を主宰し、研究所や大学の教授など専門家と議論を重ね、子供たちへの啓発活動も行っている。検討結果については、11月に仙台市で開催された「世界防災フォーラム」で報告した。

「救えた命や失われなくていい命があったはずです。世界では貧困や紛争の問題もある。根源は水なんです。将来的には世界の命を持続する活動をしていきたい」

 震災の経験者×宇宙技術で命を守る。軽くて小さなゼリーに込められた使命と可能性は限りなく大きい。