介護やスポーツ分野など、広がる用途

 だが、私が「ぜひプレゼントしたい」と思ったのは、備蓄用でも宇宙用でもなく、地方で暮らす両親だった。特に父は以前、誤嚥性肺炎を起こし、固いものが食べられなくなっていたから。

 3.11では震災関連死に該当する方も多数おられ、その要因のひとつに誤嚥性肺炎があったという。防災食は固いものがほとんどで、食べ物にとろみもつける水もなく、食べ物が誤って肺に入ってしまう。「うまく咀嚼できない高齢者だけでなく、赤ちゃんや障害を持った方など、だれもが安心して食べられるものが必要と実感しました」と島田さんは語る。

 ワンテーブルは福井県の医療法人と協力して、重度の障害のある方でも食べられるよう商品開発を重ねた。その結果、LIFE STOCKは胃ろうの方でも摂取することが可能だという。

「医療や介護分野の方からすごく期待されています。また警察署とか消防署など、昼夜を問わず長時間立ちっぱなしで働く方たちにも、活用いただけるのではないかと思います」

 さらにプロスポーツチームと熱中症対策パックに取り組んだり、活用できる分野は幅広い。

 島田さんは宇宙と出会い、ディスカッションを重ねることによって、防災に特化していた視点が、宇宙などさまざまな分野に広がったという。

「宇宙の無重力状態で食べられる食は、寝ていても食べられる。障害を持った方、ストレッチャーにいる方たちにも使えるのではないか。日本だけでなく、世界全体に目を向ければ極限状態にいる方がたくさんいることに気づいたのです」

 これは、菊池さんが抱えている問題意識とも一致した。

「JAXAや国のプロジェクトは、ある意味やりすぎなぐらい徹底的に安全性を追求している。ロケットや人工衛星などのプロダクトだけではなく、考え方とかリスクマネジメントなどの『ソフト面』を、宇宙業界にとどめておくのはもったいない。宇宙で培った成果を最大化して、違う分野の課題解決に役立てたい。島田さんとは防災産業を一緒に作りに行きましょうと議論しています」(菊池さん)

ワンテーブル工場・充填室の内部。(画像提供:ワンテーブル)