量子力学が開発された直後の1935年、ユージン・ウィグナーが理論的に予言した「金属水素」は、いまもってその存在を確認されたとは言い難いですが、もし実現すれば間違いなく毎年出るノーベル賞数個分の業績になります。

 地球上の常識を完全に超えた宇宙空間や天体の中には、私たちの常識を超えた物質の相があると考えられ、木星や土星の内部には大量の金属水素が存在する可能性も指摘されています。

 さて、その「水素」ですが、水素ガスが極めて点火しやすいことは、ご存じの方も多いと思います。

 そんなことは今年のノーベル賞と関係ないと思わないでください。実は最も本質的なポイントが以下にあります。

「水素ガスは爆発する」。皆さんはそれを2011年3月にご覧になったはずです。

福島第一原発事故と水素爆発

 あの当時、ほとんど全国民が目にしたと思いますが、あれが「水素爆発」です。原子力発電所でどうして水素が出てくるかは別論としましょう。ともかく水素ガスが発生するとまずいことがある。

 水素は「水の素」と書くわけで、簡単に空気中の酸素と結びついて

2H2+O2→ 2H2O+エネルギー

 となって爆発してしまうんですね。危険です。

 エネルギーの具体的な値は水素1モルあたり284キロジュールで、結構な熱量です。あのとき発生した水素ガスも、原発の建屋を吹き飛ばす程度の威力は十分に持っていた。

 水素ガスはまた、風船を浮かばせることにも利用可能です。ただし危険ですから現在は用いられません。かつて飛行船というテクノロジーがありました。これが水素ガスを詰めて飛んでいた。