今の日本ほど「停電」が今日の文化的な生活、人類の社会経済生活をストップさせ、場合により修復困難なほど破壊することをストレートに伝えられるタイミングはないと思います。

 電気が来ないことで断水し、ポンプが動かなくなり、トイレが使えず、汚水が溢れて衛生状態が悪化する・・・。

 こういう赤裸々な現実を考えのないエコマニアにはよく考えてもらう必要があります。基幹動力源は決定的に大事です。端的に言えば電気です。

 私たちが高い移動性をもって、電気文明の恩恵を受け続けるうえで、最も決定的な意味を持つのは「バッテリー」、つまり2次電池にほかなりません。車のバッテリーも2次電池ですが、あれは手で持って歩くことはできません。

 生命維持装置や電動車いすのようなものを含め、どのようにすれば、地球環境を含めて環境持続的に、何度も繰り返し使える電池を実現することができるか?

 オイルショックという現実を突きつけられたとき、究極の金属であるリチウムを使って、最初に「繰り返し利用できる充電可能な電池」2次電池の開発に成功したのが、今回ノーベル化学賞を受賞したスタンリー・ウィッティンガムらの初期の取り組みにほかなりません。

 しかし、水素ガスが爆発しやすいのと同様、金属リチウムにも爆発その他の危険性が伴います。

 今回吉野彰さんがノーベル化学賞を受けたのはリチウムイオン2次電池の実用化に向けてのいくつかの決定的な工夫の実装によるものです。

 これを「社会的ニーズや会社の方針であれこれやってみて開発競争に成功したね。良かったね」的な浅い観点で見ることに、私は徹頭徹尾反対します。

 すでに報道されている通り、吉野さんの初期の取り組みには、白川英樹先生の導電性プラスティック、ポリアセチレンつまり「電気を通す炭素化合物」の電子物性への本質的な検討がありました。