一つひとつトンネルを抜けていくが、短めとはいえ数が多い。上り勾配はそれほど気にならないが、それなりの疲れが出てきて、ゴールはまだなのかという気分になってくる。しかし、トンネルとトンネルの間の短い区間で立ち止まり、あふれる緑に包まれると、列車で乗っていたら一瞬で通り過ぎてしまう場所であることに思い至り、とても希少な経験をしていることを実感する。

陰ったり陽が差したりを繰り返す天気。美しい光芒に少し元気が戻ってきた

18号トンネルで最後の日を想う

 最後の18号トンネルに入る。これが最後と思えば、これまでの疲れも吹き飛ぶようだ。そして思いがけないものを発見した。群馬と長野の県境だ。そういえばすっかり忘れていた。ずっと群馬県を歩いてきたんだなということ、碓氷峠の最高地点はこの上の地上あたりにあるんだということに気づく。

ライトに照らされた県境標識。県境はなぜかワクワクする

 今回の廃線ウォークは9月30の月曜日に行われた。あえて平日に実施したのにはわけがある。22年前の今日、この路線が廃止された特別な日なのである。このため、参加者のうち鉄道ファンの比率は普段より多かったようだが、廃線を歩くのは初めてという人もいて、幅広い人々にこの路線の魅力を知ってもらいたいという主催者の想いが形になり始めているように思えた。

ゴールとなる18号トンネル出口。やりきった感がみなぎる

 廃線を歩くという非日常な時間を過ごし、とても濃密な体験をした、というのが率直な感想だ。高く険しい山を越えるという難題に挑んだ多くの人たちの積み重なった想いは、実際のその場所を歩くことでより強く感じられると思う。「魅力度第一級の廃線」は誰にとっても歩く意味がきっとあるのだと思う。

 最後に1枚の写真を載せて、今回のリポートを終えたい。今回は碓氷峠を越える鉄道建設の格闘だけに触れたが、道路も旧中山道、国道18号(旧道)、碓井バイパス(国道18号新道)、上信越自動車道という変遷をたどっている(ただしどれも廃道になっていない)。鉄道も馬車や自動車もない時代、平民も高貴な人も一様に歩いて山を越えた道が旧中山道だ。碓氷峠越えはすべてここから始まったといえる。

国道18号旧道の9番カーブ近くにある旧中山道の入口。標識の左にかなり急な山道が見える

※記事で紹介しきれなかった写真などを、著者のブログで掲載しているのでこちらもどうぞ。https://soloppo.com/usuihosoku1/