ジョンソン首相による議会閉鎖を「議会の憲法上の職務を妨げる決定は違法」とした英最高裁の判断は、極めて説得的である。憲法を構成する法律としては、マグナ・カルタ(1297年)に始まり、権利の請願(1628年)、権利の章典(1689年)と続き、21世紀になってもいくつかの憲法改革法が制定されてきた。一貫しているのは、王権を制限し、議会(Parliament)の決定権を強化する方針である。

 議会によって選ばれた首相が、自らの政治的目的で議会を閉会することは、憲法上認められないとする英最高裁の判断は妥当であろう。

政党政治が機能しなければ憲法は民主主義を守れない

 野党の労働党は、この「違法行為」の責任をとって辞任することを求めているが、ジョンソン首相は10月末のEU離脱という方針を何ら変えていない。解散総選挙の可能性も取り沙汰されているし、労働党が政権をとった場合には国民投票を再度行うことも選択肢に入っている。Brexitの行方は、ますます不透明になっている。

 最高裁が憲法判断を下しても、それは事態の打開には何の役にも立っていない。なぜか? それはEU離脱・残留という問題で、二大政党である保守党も労働党も内部で分裂しているからである。政党政治が機能していないのであり、その場合には、憲法が民主主義を守ることができないことの例である。

 国民投票があるではないかと言っても、それは議会主義の代替物にはなり得ないのである。Brexitを決めても、それを現実にするプロセスは議会が決めるのであり、そこで今ブレーキがかかっている。ナポレオン3世やヒトラーの例を出すまでもなく、国民投票が議会を潰し、独裁を正当化する免罪符に使われる危険性は認識しておかなければならない。