弾劾の手続きであるが、下院が単純過半数の賛成で訴追を決め、上院が出席議員の3分の2の多数で決定する。与党の共和党が過半数を占めている以上、今回のペロシ下院議長による弾劾訴追の調査開始が弾劾にまでつながる可能性はほとんどない。しかし、再選戦略を練るトランプにとっては、大きな政治的打撃となるであろう。

 弾劾条項を備えた憲法であっても、大統領の犯罪的行為を実証できなければならず、政権内外の権力闘争も絡んで、弾劾にまで持ち込むのは容易ではない。トランプのような人物が大統領に選ばれた場合には、国際情勢が4年間不安定になるということである。

政党政治の麻痺が「ヒトラー」を生んだ

 最後は、イスラエルとスペインである。ヒトラーを生んだワイマール共和国と同じような政党政治の問題が起こっている。

 イスラエルでは4月に総選挙が行われたが、ネタニヤフ首相は組閣に失敗し、9月17日に史上初の「やり直し総選挙」が行われた。しかし、ネタニヤフ与党の「リクード」(32議席)も、野党の「青と白」(33議席)のいずれも過半数に届かなかった。その後、議会内での推薦人数が上回ったネタニヤフ首相に、リブリン大統領は組閣を要請したが、連立交渉は難航が予想される。

 スペインも同様な状況で、4月の総選挙でサンチェス首相与党の社会労働党が過半数を得られず、組閣に行き詰まり、11月10日に再選挙が行われる。

 当時最も民主的な憲法を有していたワイマール共和国で、小党分立の結果、連立政権樹立に苦労し、統治の実績を上げることができなかった。そのような事態を前に、ドイツ国民の不満は高まり、議会制民主主義を攻撃したナチスと共産党が勢力を伸ばし、最終的にはナチスが第一党となり、ヒトラー政権が誕生したのである。

 政党政治の機能不全こそが問題であり、ワイマールの教訓は今も有効である。憲法に安住していたのでは、民主主義は守れない。