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香港・九龍の風景(Photo by Banter Snaps on Unsplash)

(文:仲野 徹)

 重慶大厦=チョンキンマンションをご存じだろうか? 知る人ぞ知る香港の九龍・尖沙咀地区にある個人住宅がメインの複合ビルで、香港の魔窟と呼ばれることもある。ウィキペディアによると、そこには、南アジア・中東・アフリカなど、さまざまな国の出身者によるコミュニティーがあるらしい。そして、香港在住のタンザニア人たちも、夜な夜な何をするともなく集まってくる。

「困ったことがあったらカラマを探せ」

 チョンキンマンションのボス、といってもオーナーなどではない。この本は、自らがチョンキンマンションのボスと名乗るタンザニア人・カラマをめぐるノンフィクション、文化人類学者・小川さやかによる密着取材ドキュメントである。

 カラマは、月に2万4千米ドルも稼ぐことのある凄腕ビジネスマンだ。しかし、稼げない月もある。そんな時でも、おだてられると見知らぬ若者にまで気前よく奢ってしまい、生活費を借りるはめになる。

 おしゃれ好きで、次々と新しい服を買うが、着た後は洗濯をせずに誰かにあげるか、ビニール袋に突っ込んだまま。チェーンスモーカーでいつもタバコを誰かにねだっている。時間にだらしなくて全く守らないし、時にはすっぽかすこともある。そんなアラフィフのおじさん中古車ディーラーだが、みなに愛されている。写真も見ようによっては愛くるしい。

 カラマのスマホのアドレス帳には、母国の上場企業の社長、政府高官から、香港にいるドラッグディーラーや売春婦、元囚人までさまざまな友人の連絡先が登録されている。どんだけ幅広い付き合いなんですか…。そして、タンザニア香港組合の創設者にして、現在は副組合長。