(文:西野 智紀)
つらい話は聞きたくない。陰惨なニュースなどもっと見たくない。気持ちが沈んでしまうから。しかしながらその一方で、我々はついついネガティヴな情報に耳をそばだてたり、詳報を集めたりしてしまう。つまるところ悲観とは、自分と関係がない事象であれば、中毒性のある一種の娯楽なのかもしれない。
そんな中でも、ひときわ暗い好奇心を呼び覚ましてくれるのが、凶悪犯罪だ。事件のあらましから犯人の手口、動機、背景、現場の状況、事件のその後にいたるまで、ありとあらゆることを知りたくなる――良心の呵責を感じながら。
本書『犯罪学大図鑑』は、そうした人々にはまさしく必携の著だ。三省堂の大図鑑シリーズの最新刊であるこの本は、社会を震撼させた古今東西の犯罪事例101件を収録・分類し、歴史をたどりやすいよう年代順に並べ、図鑑ならではの図版やコラムも充実し、豪華絢爛、大満足(?)の一冊となっている。
最古の殺人は43万年前
まず、犯罪と聞いて第一に想起させられるのは殺人だろう。確認されている最古の殺人は43万年前に遡る。2015年、スペイン北部のアタプエルカ山地で考古学者たちが発見した、頭蓋の陥没したネアンデルタール人の遺骸が、CTスキャンや三次元モデル分析によって他殺だと結論されたのだ。
凶悪殺人は読んでいるだけで怖気立つものが多い。1969年にアメリカ・カリフォルニア州で発生したマンソン・ファミリーによるカルト殺人などはその典型だ。霊的・性的影響を行使するカリスマ、チャールズ・マンソンを首魁とするこのヒッピーコミューンは、迫り来る人種戦争「ヘルター・スケルター」の起こし方を国民に示すためとして、10人以上を猟奇的に殺害した。犠牲者の中には、ロマン・ポランスキーの映画『吸血鬼』に出演した妊娠8カ月の女優シャロン・テイトもいた。何よりおぞましいのは、マンソンは自分では手を下さず、教唆するだけで信者が望み通り犯行に及んだところである。