他にも、殺人や強盗、放火と比べると注目度が落ちるが、恐るべき権謀術数を駆使した犯罪もある。それが詐欺だ。

 1970年代末から、ナチス記念品収集家の間で、ある書物の話題が広がった。アドルフ・ヒトラーが1932年から45年まで書き綴った日記である。スクープを欲していた雑誌「シュテルン」の記者がこれに飛びつき、全61巻の日記の所有者コンラート・クーヤウという男に高額を支払って購入した。筆跡鑑定でも本物だと太鼓判を押され、同誌は意気軒昂に存在を公表し、世界中で大騒ぎとなった。

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 が、直後に歴史家や法医学者から、日記は偽造であるとの糾弾が相次いだ。それもそのはず、これは熱心なナチス信奉者であるクーヤウが「自分がヒトラーであるような気がした」ほどに精魂込めて作り上げた偽書だったのだ(鑑定のサンプルに使われた記念品もクーヤウの偽造だった)。かくして史学的検証を怠ったシュテルン誌は面目を失い、クーヤウは実刑判決を受けた。

上空でパラシュートをつけて飛び降り逃亡

 解決済みの事件はいくばくか溜飲が下がる思いがするが、不思議なくらい人の心をとらえて離さない未解決事件もある。切り裂きジャックやブラック・ダリア事件、ジョン・F・ケネディ暗殺などがその筆頭だが、航空機をハイジャックし空港で要求した20万ドルを受け取った後、上空でパラシュートをつけて飛び降りまんまと逃げおおせるという映画顔負けのD・B・クーパー事件(1981年)なんかも異様な魅力がある。

 なお、我が国日本からは、組織犯罪として暴力団と、大量毒殺である帝銀事件(平沢貞道)が大きく選出されている。前者ではヤクザの組織構成や指を詰めるといった儀式の紹介のみならず、2011年の島田紳助引退を引き合いに、芸能界やスポーツ界にも反社会的勢力が浸透しているという点まで指摘されているのが興味深い。著者はアメリカの犯罪学者やジャーナリストらから成るが、彼らの入念な調査ぶりがうかがえる記述である。

 冗長になってしまうので詳細は省くが、他にも取り上げたい瞠目の犯罪はたくさんある。100年以上にも及ぶシチリア・マフィアと政府・警察の争い。ハンサムなルックスを使い次々と女子学生を手にかけ30人以上を殺害したシリアルキラー、テッド・バンディ。ポンジ・スキーム(自転車操業)の語源となったチャールズ・ポンジ。無差別銃乱射男と警官隊との息を呑む対決が描かれたテキサス・タワー乱射事件。現ロシア政権から送り込まれた刺客によって放射性毒物ポロニウム210を盛られた元スパイ、アンドレイ・ルゴヴォイ・・・。読めば読むほど、これらの事件への知的欲求が高まっていくのが後ろめたくも面白い。創作者にとってはインスピレーションの宝庫だと言っても過言ではないだろう。