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(文:堀内 勉)

 ライフネット生命保険のファウンダーで、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)の学長を務めている出口治明氏の著作には、いつも感心させられる。本書を読んで改めて、こうした幅広い視野で世界の哲学と宗教を語れるビジネスパーソンというのは、日本では極めて稀だと思った。

 出口氏によれば、遥か昔から人間が抱いてきた根源的な問い掛けは、次の2つに集約されるという。

①「世界はどうしてできたのか、また世界は何でできているのか?」
②「人間はどこからきてどこへ行くのか、何のために生きているのか?」

 19世紀終わり頃、フランス領タヒチで画家のポール・ゴーギャンが描いた『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』というタイトルの有名な絵画があるが、こうした問いに答えてきたのが、宗教であり哲学であり、更には哲学から派生した自然科学だったのである。

 神の存在を前提に全ての答えを組み立ててきた宗教の時代、「神とは?歴史とは?善とは?」などの命題を問うてきた哲学の時代、そして現代の自然科学の時代に至り、この2つの問いに対しては、今、宇宙物理学や脳科学がその真実に迫ろうとしている。

現代の人類に残された最後の難題

 これを評者なりに解釈すれば、前者の世界に関する問いは、138億年前に誕生した宇宙のまだ光が存在しなかった最初の数十万年について、観測ではなく理論的に解明しようとする理論物理学がチャレンジしており、また後者の人間に関する問いは、人間の意識や心はどこから来るのかについて解明しようとして脳科学がチャレンジしているが、この「宇宙の起源」と「意識と心」が、現代の人類に残された最後の難題だということである。

 実は、宇宙の起源については、余剰次元、統一理論などの素粒子理論現象論、量子重力理論、マルチバース宇宙論の分野で大きな功績をあげているUCバークレー教授・バークレー理論物理学センター長の野村泰紀氏が、宇宙の起源の問題は理論的には解明済みと言っている。