さらに、渡邊教授が一番大きな成果と指摘するのが、「表面物質と地下物質という2種類の試料を比較できる形で採取できたこと」。2つの試料を比べることで「(リュウグウの)垂直方向でどういう変化があるか議論できる。表面と地下で大きな違いがなければ、小惑星の表面はずいぶんかき混ぜられていることが分かる。一方、地下だけに新鮮なものがあったとすれば、有機物や水は小惑星の地下で保存されやすいと証明できる。どういう結果が出てもサイエンスとして非常に大きな成果」だと。

 一天体上の異なる場所に狙いを定め、試料を採るマルチサンプリング、しかも月より遠い天体で地下物質を採取したのは史上初だという。地下物質は、太陽風や宇宙線などによる変性、つまり「宇宙風化」を受けておらず、約46億年前に太陽系が誕生した頃の状態をとどめていると考えられる。だから第2回着陸成功後の会見冒頭、津田プロマネは「私たちは太陽系の歴史を手に入れることができた」と表現した。有機物や水に関する発見が期待されるが、渡邉教授によれば、表面と地下物質がかき混ぜられている可能性があるという。興味深い。

第2回タッチダウン時、高度8mからのパノラマ画像。画像右側に直径10mを超える人工クレーターが見える。画像左側中央やや下にはやぶさ2は着陸した。2つのカメラの画像を合成。(画像:JAXA、千葉工大、東京大、高知大、立教大、名古屋大、明治大、会津大、産総研)

 では、技術的にはどんな意味があるのか? 藤本正樹JAXA宇宙科学研究所副所長は「1回の着陸成功なら、たまたまうまくいったでしょうともいえる。でも2回目の着陸の方が綺麗に、精度高くできた。鼻歌を歌うようにとまでは言いませんが(笑)、着陸技術を持っていることを世界に証明できたと思います」と胸を張る。

 前回の記事で紹介したように、1回目で得た試料を失いかねない2回目の着陸は、NASAならやらないミッションだ。それを日本が成し遂げたことの意味は?

「今まで日本は(予算も打ち上げロケットも)小さい割に頑張っているねという評価でした。この成功で、小惑星探査については日本が世界標準を決めさせてもらいますよという状況になったと思う」

 藤本副所長は、日本車を例にとって今回の着陸成功の意味を説明する。

「日本は道が狭いから小さい車を作りました。その結果、燃費のいい車ができて、世界に小さい車が広がった。それと同じで、予算が限られる日本では難しいことに挑戦ないと成果が出ない。工夫の結果、低予算で面白いミッションが実現できることを示した。さらに得られたもの(=小惑星探査の手法)に価値があれば世界のスタンダードをとれる」