眼も心臓も、イカの体は驚くほどハイスペックだった

生物進化を食べる(第3話)軟体動物篇

2019.06.28(Fri)大平 万里

 しかし、カンブリア紀の大爆発では、甲羅や殻を発達させた動物が増える。と同時に、運動できる体のつくり、すなわち筋肉を発達させた動物も激増した。殻で天敵から身を守るか、あるいは積極的に餌を捕らえに行くか。すなわち「食うか食われるか」の世界が始まったのだ。

 そして、「攻撃は最大の防御」とばかりに、運動性能をさらに向上させ、獲物(あるいは天敵)をより鮮明に認識するために眼を発達させた動物が覇者になっていった。前回登場した「アノマロカリス」はその典型例である。カンブリア紀の大爆発は、眼という感覚器の発達によって加速されたと考える研究者もいるくらいである。

 現在もイカが生き残っているということは、イカの祖先もおそらくはカンブリア紀の大爆発の「攻撃は最大の防御」の流れに乗ったのだろう。ただし、カンブリア紀のイカの祖先の姿ははっきりしない。殻の化石は残っているものの、中身の化石がないのである。それはイカと近縁で、カンブリア紀以降に大繁栄するアンモナイトも同様である。世界中で大量に発掘されるが、殻から顔や体を出しているようなイラストはあくまで想像図であって、化石として残っているのは殻だけだ。

イカと近縁の生物、アンモナイトの一種の化石。殻のみが残されている。

「殻を体の内部にしまい込む」というイカの進化

 現在、私たちが食べているイカの系統的な位置は、大きい分類では「冠輪動物」であり、その中の「軟体動物」ということになる。軟体動物には貝類やナメクジなども含まれるが、その中でもイカは「頭足類」というかなり高度に進化したグループに入る。

 しかし、現在のイカには近縁のアンモナイトと違って殻がない。殻はどこにいってしまったのだろうか。実は、イカは殻を体内に隠し持っているのだ。紋甲イカなどを捌いているとプラスチック製のヤスリのような構造物が出てくる。物質としては炭酸カルシウムで、まさに貝殻そのものである。つまり、それは祖先の殻の名残である。インコなどのカルシウム源として与えている人も多いだろう。

イカの殻の名残。「イカの甲」や「イカの骨」ともよばれるが、正しくは殻。
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