眼も心臓も、イカの体は驚くほどハイスペックだった

生物進化を食べる(第3話)軟体動物篇

2019.06.28(Fri)大平 万里

 では、イカの祖先は殻をいつごろ内部にしまい込んだのかというと、約2億年前の中生代三畳紀に登場した「べレムナイト」からといわれている。保存状態のよいべレムナイトの一種の化石を見ると、ほとんど現在のイカと変わらないように見える。

ベレムナイトの一種Phragmoteuthis conocaudaの化石。 (写真:Ghedoghedo from Wikimedia Commons

 ともあれ、殻を内に秘めたイカの仲間の一部は、恐竜大絶滅の時代を生き抜いて、初登場から現在まで数億年にわたって生きのびている。中生代に大繁栄したにもかかわらず、6600万年前の白亜紀末に完全に絶滅してしまったアンモナイトとは対照的である。運もあるだろうが、やはり生存に有利なさまざまな形質を試行錯誤してきたことが大きいだろう。そのひとつが、イカのカメラ眼であるといえる。

巧みな眼、体色変化に墨吐き・・・ハイスペックなイカの体

 イカの発達したカメラ眼には、実はヒトのカメラ眼と異なったところがある。それは、ヒトの眼には光を受容できない「盲斑(もうはん)」という部分があるのに対して、イカの眼にはそれがないという違いである。ヒトの眼の視神経につながる神経線維は光が当たる側に配置されているために、どこかにその視神経の出口をつくらないと脳へ情報を伝達することができない。その出口が盲斑である。

 一方、イカの眼では神経線維は光を受容する裏側に配置されているために、視神経への出口をつくる必要がないのだ。つまりイカの眼には「死角」がない。一方、死角が生じうるヒトの眼は、工業製品として見れば明らかに進化上の設計ミスとしかいいようがないだろう。

カメラ眼の構造の比較。左が脊椎動物の眼で、右が頭足類の眼。(1)網膜(2)神経線維(3)視神経(4)盲斑。 (図版:Caerbannog from Wikimedia Commons
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