柑橘類の摂取と身体への作用をテーマに、研究者に話を聞いている。前篇では、世間で流布される「柑橘類を食べるとシミができる」などの情報には相当な誤解や飛躍があるとのことだった。
いま一度、柑橘類が体にもたらす作用について知っておきたい。後篇では、日本人を対象とした研究により明らかになった、温州ミカン(以下、ミカン)摂取の体への作用を中心に展開する。
話を聞いている同志社女子大学生活科学部教授の杉浦実氏は、国の研究機関である農研機構に在籍していた時期、静岡県引佐郡三ケ日町(現浜松市北区三ヶ日町)で「三ヶ日町研究」とよばれる栄養疫学調査を主導してきた。同町の住民を対象に10年間の追跡調査を行い、ミカンに含まれる成分の摂取と疾病リスクの関係などを解明してきたのだ。とりわけ「β-クリプトキサンチン」という成分が、さまざまな疾病の発症リスクを抑えることが分かったという。
ミカンに多く含まれる「β-クリプトキサンチン」に着目
――「三ヶ日町研究」は、杉浦さんが所属していた農研機構が、浜松医科大学、浜松市の協力を経て、旧三ケ日町の住民1073人を対象に2003年から10年間、ミカン摂取がどのように疾病リスクに関わるか追跡調査を行ったものと聞きます。研究の経緯はどのようなものでしたか。
杉浦実教授(以下、敬称略) すでに欧米など海外では、栄養疫学研究の結果に基づいて、果物摂取の疾患予防効果などが発信されていました。一方、日本ではそうした研究がほとんど行われておらず、国産の果樹でも、健康や疾病予防の効果を明らかにしていく必要があると考えました。
私自身は、「三ヶ日町研究」より前に、静岡県で6049人を対象に聞き取り調査を行い、「ミカン摂取頻度が高いほど、糖尿病、高血圧、心臓病などの有病率が低い」といった関係性を見出していました。ただし、これは、人びとのミカン摂取状況と疾病状況を同じときに調べる「横断研究」とよばれるもので、因果関係があるとはまではいえません。そこで、旧三ケ日町の住民に協力をいただき、血液検査や食事調査などでデータをとりながら、10年間かけて追跡調査を行い、因果関係を調べてみることにしました。これが「三ヶ日町研究」です。