エルンスト・ルスカによる世界最初の電子顕微鏡。ドイツ博物館収蔵。Photo by J Brew. (CC BY-SA 3.0)

 量子力学の応用技術のひとつが「電子顕微鏡」です。1931年、エルンスト・ルスカ(1906-1988)の開発した透過型電子顕微鏡は、可視光の代わりに電子を用いて、対象を「見る」ことができました。(ただし電子顕微鏡開発チームは、開発当時、ド=ブロイの論文を知らなかったそうです。)

 電子の波長はエネルギーによりますが、100万分の1 mm以下にすることができます。これは原子よりも小さなサイズなので、原理的には、電子顕微鏡で原子サイズを観察可能です。ウイルスもタンパク質分子も丸見えです。

顕微鏡技術は今日も元気に進歩中

 ルスカらによる最初の電子顕微鏡の分解能は数百nm程度で、これは光学顕微鏡に比べると見劣りするものでした。また大出力の電子銃、つまり電子を放出する装置が必要で、これで電子ビームを照射された試料は見る間に傷んでいきました。

 しかしこの画期的で将来性のある顕微鏡技術は絶え間なく改良が進められ、その性能は何回も飛躍しました。

 どれほど進歩があったのか、例えばノーベル賞受賞リストを見てみると、これまで電子顕微鏡技術関連で6人がノーベル賞を受賞しています。(ルスカ先生の受賞は1986年で、どういうわけか55年間もおあずけされています。)

 2017年のノーベル化学賞の対象となった「低温電子顕微鏡法」は生体分子を冷凍して観察する技術です。これにより生化学研究者は、生体分子をいわば「生きたまま」くっきりはっきり撮像できるようになりました。

 1986年にノーベル物理学賞を受賞した「走査トンネル顕微鏡」は、トンネル効果というこれまた 別の量子力学的効果を応用した第2の顕微鏡技術です。こちらは試料を薄くスライスする必要がなく、また高電圧の電子線を浴びせる必要もない、試料にやさしい顕微鏡です。

 また、この走査トンネル顕微鏡を発明してノーベル賞を受賞したゲルト・ビーニッヒ博士(1947-)は、「原子間力顕微鏡」という第3の顕微鏡を発明しています。すごいですね。

 こうしてルスカ以来88年間の進歩を経た現在、透過型電子顕微鏡の分解能は0.04 nmにまで達しています。これはもう原子のサイズです。実に5000倍の性能向上です。(ちなみにこの0.04 nmという分解能の世界記録保持者は日本電子と東大のグループです。)