田原 そもそも慰安婦合意に反対の声を上げた挺対協って、メンバーは何人くらいなんですか。

武藤 詳しくは知りませんが、活発に活動しています。毎週水曜には、雨が降ろうが雪が降ろうが、ソウルの日本大使館前でデモをやっています。

韓国政府、慰安婦財団の解散を発表

韓国ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像のそばで座り込みを行うデモ隊(2018年11月21日撮影)。(c)Jung Yeon-je / AFP〔AFPBB News

田原 今でもですか。

武藤 はい。実際に慰安婦だった方で、挺対協に属している人はほんの数人です。ほかに、元慰安婦の人は「ナヌムの家」で生活しています。

 慰安婦合意を結んだ朴槿恵さんの行動は、過去の政権とは違っていました。それまでの韓国政府は、元慰安婦といっても挺対協とかナヌムの家としか接触していなかった。そういうところに所属している元慰安婦のおばあさんたちは、お互いに顔色を見合わせて、「こんな合意ダメだ」としか言えない状態になっているわけです。

 ところが朴槿恵さんは、和解・癒し財団の理事長を通して、全ての慰安婦と接触したわけです。その結果、47名いた元慰安婦の方々の7割の人が受け入れて、支援金を受け取ったのです。合意を受け入れなかったのは3割でしかないんです。

田原 3割って言ったら・・・。

武藤 10人ちょっとです。しかも、受け入れなかったその3割の人たちはナヌムの家とか挺対協に属している人たちなんですよ。それ以外の人は受け入れているんです。それなのになぜ「国民の大多数が情緒的に受け入れられていない」ということになるのか。非常に不思議です。

 恐らく受け入れなかった3割の人にとってみれば、ここで解決しちゃうともう自分たちが運動する意義がなくなっちゃうから反対したのでしょう。しかもその人たちは、文在寅氏を支持するグループですからね。だから彼は「国民の大多数が情緒的に受け入れない」と言ったのでしょう。

 だけど、まずは受け入れた7割の人たちの気持ちになってほしいと思います。あの人たちは、もうこの問題を早く片付けて、ゆったりと老後を過ごしたいと思っているはずです。日本からの支援金を受け取り、謝罪も受け、そしてこの問題を過去のものとして、元慰安婦という束縛から離れて、ゆっくりとした老後を送りたいと思っていると思いますよ。そういう7割の人たちの気持ちを、文在寅氏は踏みにじっているのです。

かつて自分がまとめた政府見解を大統領になったら反故に

田原 そこで韓国の国民的な常識として、「7割が賛成したらいいじゃないか」という声は盛り上がらないんですか。

武藤 言えないでしょうね。そんなことを言ったら、「親日だ」って批判されますから。韓国で「親日」のレッテルを貼られることは、非国民と言われるのと同じ意味を持ちますから。

 だけど、本心では、「もういいんじゃないか」と思っている人は相当いるし、そもそも慰安婦問題に関心を持っている人自体が本当に少数になってきています。

 ソウルにいわゆる「慰安婦博物館」が出来たり、あちこちに慰安婦像や徴用工像が設置されたりするのはなぜかと言えば、そういう問題への国民の関心が薄れているからです。だから、「なんとか記憶に留めておかなければ」ということで、モニュメントをたくさん作るのです。

田原 もうひとつ、韓国のことでよく分からない問題があります。朴槿恵さんが高裁判決で、懲役25年、罰金およそ20憶円なんていう途方もなく重い刑罰が科せられていますが、なぜあんな重い刑罰になるんですか。

武藤 徴用工の裁判を見ても分かりますが、韓国の司法は無茶苦茶なんです。

田原 徴用工の問題も、実は以前「佐藤栄作―朴正煕の会談では個人の問題を処理していないじゃないか」ということで問題化しましたが、2005年に当時の政権が日韓国交正常化交渉の過程を検証し、元徴用工の個人請求権は日本から韓国に供与した3億ドルの資金に包括的に勘案されていたので「解決済み」として、個人に対する補償は「韓国政府が責任を負う」と言ったわけですよね。

武藤 盧武鉉政権の時ですよね。そして、当時の青瓦台の幹部である文在寅氏も、その政府見解をまとめるのに深くタッチしている。それを自分が大統領になったらひっくり返しているわけです。卓袱台返しもいいところですよ。

田原 自分が当事者として取りまとめた政府見解を、自分でひっくり返しちゃんですからね。