最高裁の判事経験もない人物を最高裁長官に

武藤 もともと文在寅氏は、2000年に三菱重工に賠償を求めて元徴用工らが起こした訴訟で、当初、原告弁護団のメンバーでした。ですから徴用工問題にはかなり深くかかわっていました。

 そして大統領に就任から100日目の記者会見で、「個人の請求権は残っているというのが憲法裁判所や最高裁の判例だ」と述べるのです。

 その翌月には、最高裁の長官に、春川地方裁判の前所長である金命洙をわざわざ任命しています。それまで最高裁の判事をしたこともない、人権派として知られる人です。そういう人物を引っ張り出して、自分の主義主張に合うような判決を出させている。それで「自分は責任がない、司法の判断だ」って言われても、納得しませんよね。

 しかも今年1月には、金命洙の前の最高裁長官・梁承泰を、「朴槿恵政権時に、徴用工裁判で日本企業に賠償を命じる判決を故意に先送りした」として逮捕してしまうのですから開いた口がふさがりません。

 さらに同じ1月に、文在寅氏が勝利した大統領選の際に「不正プログラムを使ってネット上の世論捜査をした」との容疑で逮捕されていた文大統領の腹心、金慶洙・慶尚南道の知事に、懲役2年の実刑判決が下ると、与党である「共に民主党」は「これは前最高裁長官・梁承泰を逮捕したことによる報復だ」と反発して、金慶洙に実刑判決を下した裁判官にことを「弾劾すべきだ」と大騒ぎしている。

 そうやって与党や自分の側近たちに司法介入させておいて、文在寅氏自身は、「自分は司法当局の判断を尊重する」なんて言うんですよ。もう言っていることとやっていることがバラバラで、ハチャメチャな政権なんですね。最近朝鮮日報の主筆がコラムを書いて、文大統領の2年前の就任演説は「ウソの饗宴」だと言っていますが、大統領がそういう人だとは情けないですよね。

田原 それ以前の問題として、韓国の裁判所の判断というのはおかしいという指摘を、韓国支局で長く取材をしてきた日本人記者から聞いたことがあります。というのも、朴槿恵さんを有罪にしたのも、要するに裁判所が国民におもねっているからだという指摘です。その指摘についてどう考えていますか。

武藤 国民情緒におもねっている、というのはその通りです。

 日本の最高裁の裁判官も国民情緒を考慮することがある、と聞いたことがあります。ただ、それが政治的、外交的に大きな影響を与えそうな案件については判決を控えている、と。しかし韓国はダイレクトに国民情緒に従って判決を下しているわけですね。これが日本と韓国の司法の大きな違いだと思います。

 田原さんがおっしゃるように、朴槿恵さんはあんな有罪判決を受ける筋合いはないです。だけど、懲役25年、罰金20億円なんていう判決が下ったのは、文在寅氏の影響ですよ。

田原 このままいくと、朴槿恵さんは釈放されないまま刑務所で亡くなる可能性が高いですよね。

武藤 その可能性はありますね。だけど、李明博さんが釈放された例もあります。彼も糖尿病なんかでだいぶ体調が悪かったようです。獄中で亡くなったりすると、後々、文在寅氏が叩かれるかもしれない、ということで保釈をしたのでしょう。朴槿恵さんも腰痛などの持病があるようですが、果たしてどうなるのか・・・。

<次回:「文在寅は『何が韓国の国益か』を理解していない」
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