2016年9月、ラオスで開催されたASEAN関連首脳会談に出席した際に首脳会談を行った安倍晋三首相と朴槿恵大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

日韓の間に突き刺さった、いわゆる慰安婦問題。日本側からは、元慰安婦の女性に首相からのお詫びのレターをやお見舞金の支給など、さまざまな対応を提案してきた。しかし、そのたびに慰安婦の支援団体などからの強い反発があり、いまだ最終解決に至ってはいない。慰安婦問題がなかなか解決しないカラクリを、前回に引き続き、田原総一朗氏が、元在大韓民国特命全権大使である武藤正敏氏に聞いた。(構成:阿部 崇、撮影[田原氏、武藤氏]:NOJYO<高木俊幸写真事務所>​)

<前回:朴槿恵・前大統領はなぜあれほど攻撃されたのか
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56428

韓国以外の国々が了承した「アジア女性基金」による解決

田原 日韓の最大の懸案になっている慰安婦問題。日本もいろいろ解決の道を探ってきました。韓国だけじゃなく、その他のアジアの国々の元慰安婦の女性への補償と名誉回復を目的としたアジア女性基金を、国民から寄付を募って作っている。

 この寄付金も相当集まって、韓国以外の国の人々はこのスキームでほぼ了解してくれている。韓国も最初は、それでOKすると言っていた。

 しかし途中で挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会。現・日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)が強く反対して、態度が変わっちゃった。

田原総一朗:東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てジャーナリストに。『朝まで生テレビ』(テレビ朝日)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)などに出演する傍ら、活字媒体での連載も多数。

武藤 韓国は「慰安婦の問題は国交正常化交渉の時に取り上げていないから、未解決だ」という主張です。

田原 佐藤栄作さんとの交渉の時に取り上げていなかったと?

武藤 はい。

田原 あの時はまだ韓国自身も慰安婦の存在についてよく分かっていなかったんじゃない?

武藤 慰安婦の存在については知っていました。戦時中の韓国では、若い女性が独身のままでいると慰安婦として連れていかれるからというので、親が娘を、どんな相手とでもいいから結婚させたりしていたんです。身分が違う人とでもね。だからみんな慰安婦の存在は知っていました。

 ただ国交正常化交渉では、韓国がこの問題を取り上げなかったんですよ。

武藤正敏:外交経済評論家。元在大韓民国特命全権大使。横浜国立大学卒業後、外務省入省。アジア局北東アジア課長、在オーストラリア日本大使館公使、在ホノルル総領事、在クウェート特命全権大使などを歴任ののち、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』、『韓国の大誤算』、『韓国人に生まれなくてよかった』(以上、悟空出版)、『「反日・親北」の韓国 はや制裁対象!』(李相哲氏との共著、WAC BUNKO)がある。

田原 どうしてかな?

武藤 私が想像するに、やはり慰安婦だった人たちは、終戦後、故郷に帰ってから、「慰安婦として貞操を蹂躙された」ということから周囲から蔑まれ、非常に辛い時期を過ごしてきた。終戦から十数年が過ぎ、結婚もし、子どもも出来、ようやく普通の生活に慣れてきた。そのタイミングで慰安婦問題を日本との交渉で取り上げると、その人たちをまた苦しめることになってしまう、と。そういう配慮があったのではないかと思います。

 その心情はよく分かります。同じ立場だったら私も同じように思います。だから、日本政府としても「慰安婦問題は解決済み」というのが原則的なポジションではありますが、やっぱり日本政府としては、人道的にこの問題に向き合わなきゃいけない。そういうことで、政府としてもいろいろやってきたわけですね。

田原 つまり65年の時には、決着じゃなくて、取り上げなかったということなんだ。