田原 その後も慰安婦問題解決の努力は続けられ、安倍さんと朴槿恵さんとの間で2015年に慰安婦合意がなされますね。そもそもあれは、どっちから動き出したんですか。

武藤 あのときも、やっぱりアメリカから「何とかしろ」と言われたんですね。

田原 当時はオバマ政権かな。

武藤 ええ。そんなこともあって安倍総理も「なんとか収めないといけない」と思っていたし、朴槿恵さんは父親である朴正煕がこの問題を解決しないまま日本と国交正常化したという負い目があるから、「最終的には自分が何とかしなきゃ」と思っていたわけです。

 2015年は、ちょうど日韓国交正常化50周年の年でもありました。そこで、記念のレセプションをソウルの日本大使館と東京の韓国大使館で同じ6月22日に開催し、それぞれに首脳が出たわけです。それ以降、朴槿恵さんの態度は「日韓関係ちゃんとやらなきゃいけない」という前向きなものへと、ずいぶん変わってきました。

 さらにこの年の終戦記念日の「終戦70年」の談話の中で、安倍総理は「反省と謝罪」の言葉を入れたわけですね。

田原 村山さんが総理大臣の時の談話と同じように、「反省と謝罪」を言った。

武藤 韓国内の反応は、「あれは村山元総理の受け売りだ。安倍総理自身の言葉じゃないじゃな」というものでした。

 それを受けて朴槿恵さんは「これは村山さん以降の日本政府の立場であって、それは未来永劫、日本政府の変わらない立場なんだ」と肯定したんです。そうしたら、韓国マスコミの論調も一変したんです。

「安倍総理の言葉は、自分の言葉ではないので不十分だと思うが、それでも朴槿恵大統領は肯定的に評価した」という感じでトーンダウンしたんですね。

 そういう積み重ねがあって、その年12月、安倍総理と朴槿恵大統領との間で慰安婦合意がなされた。

画期的だった安倍-朴槿恵の慰安婦合意

田原 あれは画期的な合意でしたね。

武藤 私も、これは日韓にとって一つの大きな前例になると思いました。

 日韓双方がお互いに譲れることは譲って合意したわけですね。つまり日本側は戦時中の軍部の関与のもとに多くの女性の名誉と尊厳を深く傷つけたことについて、政府は責任を痛感しているとしましたが、法的な責任や人道的な責任ということについては明確に触れることは避けました。そして日本政府は新たに韓国政府が作る「和解・癒し財団」に10億円を拠出するとした。

 韓国側は、もう二度とこの問題を国際的にも持ち出さない、最終的、不可逆的な解決とするということを確認した。

 そうやってお互いに譲り合ったわけです。これは非常にいい前例だと思ったんです。ところがそこで猛烈な批判の声を上げてきたのがやはり挺対協でした。

慰安婦支援の財団発足、反対派が警察と衝突 ソウル

韓国ソウルで発足した元慰安婦支援を行う「和解・癒やし財団」に抗議するため記者会見場に乱入し、警察官によって連れ出される人(2016年7月28日撮影)。(c)AFP/JUNG YEON-JE〔AFPBB News

田原 安倍さんと朴槿恵さんとの間では、慰安婦の問題は日本がお金を出すことで一応解決すると思ったんですね。その状況が変わったのは・・・。

武藤 文在寅氏が大統領になってからです。彼は、朴槿恵さんが罷免された後に行われた大統領選に、慰安婦合意の過程を検証することを公約として立候補していました。そして大統領就任後は、「国民の大部分が情緒的に受け入れられていない現実がある」と言い出して、実際にタスクフォースを立ち上げて検証作業に入った。

 その検証の結果として、「公開されている内容以外にも秘密合意があるからダメだ」ということで、合意内容の履行をやめてしまったわけです。