イシクラゲは27億年の生物史が詰まった味だった

生物進化を食べる(第1話)シアノバクテリア篇

2019.04.26(Fri)大平 万里

シアノバクテリアが起こした生物進化の一大事

 その後に与えた影響という点で、生物のみならず、地球環境の歴史においても、このシアノバクテリアの出現は極めて重大なできごとである。シアノバクテリアが登場しなければ、私たちだけでなく、地球上の多細胞生物のほとんどが登場することもおそらくなかったからだ。

 シアノバクテリアが作った酸素は、その反応性の高さゆえに、当初は多くの生物にとって猛毒であった。しかし、その猛毒を飼いならしたある種のバクテリアが別の個体の細胞に乱入し、その個体の有機物を材料に使って効率的にエネルギーを変換する術を手に入れた。これが、冒頭の「真核生物」の誕生である。

 こうして真核生物は酸素から得た高いエネルギーを使って、極めて効率的な代謝ができるようになった。顕微鏡でようやく見える微生物でしかなかった生命は、その膨大なエネルギーを使って多細胞になることが可能になり、巨大化していくことに成功したのである。そして、その末裔が現在地球で繁栄している「目に見える大きさの」生物たちなのだ。

イシクラゲからもホウレンソウからも「食物の原点」を味わえる

 イシクラゲからだいぶスケールの大きい話になってしまったが、私たちが日々食べている生物のほとんどは、生きてゆくのに酸素を必要とする。すなわち、私たちが食べているものは、シアノバクテリア以降に出現した生物が大半なのである。

 これを逆に考えれば、「私たちの食物の原点はシアノバクテリア」ということになる。イシクラゲやスイゼンジノリは、空腹を満たす食材というより、その食感や風味を味わう嗜好品である。しかし、太古のシアノバクテリアの遺伝子を受け継いだ「27億年前の味」と思えば、その淡白な風味も感慨深いものになるのではないか。

 そして、実を言うと、何もイシクラゲを採集しなくても、食物の原点であるシアノバクテリアを私たちは日々食べている。というのも、陸上植物の細胞に存在する葉緑体という細胞小器官は、もともとは真核細胞に共生したシアノバクテリアだったと考えられているからだ。すなわち、朝食にホウレンソウが出てくれば、細胞に居候して数億年経過したシアノバクテリアを食べることになるわけだ。

 さて、次回はもう少し時代を進めて、約5億年前に登場した食材について見ていこう。

第2話へつづく)

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