イシクラゲは27億年の生物史が詰まった味だった

生物進化を食べる(第1話)シアノバクテリア篇

2019.04.26(Fri)大平 万里

 さて、イシクラゲはどこに属するのかといえば、なんと「バクテリア」のドメインなのだ。バクテリアとは、細胞の中に小器官がほとんどない生物群であり、大腸菌や乳酸菌などが含まれる。

 そして、イシクラゲは「シアノバクテリア」(藍色細菌またはラン藻ともいう)とよばれるグループに入っている。つまり、イシクラゲは、海藻よりも大腸菌などに近いということである。バクテリアの多くは極めて微小であり、肉眼では見えない。しかし、イシクラゲは細胞が数珠つなぎになって繊維状になっており、さらに大量のゲルを分泌して体積を文字どおり「水増し」させて海藻のような見た目になっていたのである。実際、イシクラゲの個々の細胞自体は、コンブのような海藻に比べて非常に単純な構造となっている。

数珠つなぎ状になっているイシクラゲの細胞。1個の直径は3〜5μm(1μmは1000分の1mm)ほど。緑色の部分は真核生物の緑藻。

 食用になるシアノバクテリアには、他にスイゼンジノリやスピルリナなどある。スイゼンジノリは天然では絶滅寸前の日本固有種で、いまや料亭でしかお目にかかることはない高級食材である。また、スピルリナは健康食品として名前を聞いたことがあるだろう。

 スピルリナが健康食品になっていることから分かるとおり、シアノバクテリアはビタミンやミネラルを豊富に含んでいるものが多い。そうした栄養素は、日ごろ食している植物、たとえばホウレンソウやニンジンなどにも共通して含まれているものである。実は、ヒトの必須ビタミンやミネラルの多くは植物の最大の特徴である光合成にも必要な成分だったのである。

 しかし、バクテリアという単純な生物に、なぜ光合成という高等植物の営みに必要な成分が含まれているのかといえば、それは光合成を行う生物の「元祖」がシアノバクテリアだからである。

「元祖」というからには、シアノバクテリアは高等植物よりも前から光合成をしているということになる。では、いつごろから光合成をしているのか。

 答えは、なんと「27億年前から」である。まったく想像もつかない昔の話だが、現生人類であるホモ・サピエンスの登場(約20万年前)を昨日のこととして換算すると、シアノバクテリアの登場はおよそ“35年前のできごと”というタイムスパンになる。35年前の1984年といえば、初代マッキントッシュが発売された年だ。27億年前は、陸上植物はおろか、藻類でさえも出現していない時代で、まだ地球には酸素もほとんどなかった。そう、地球上の酸素は27億年前のシアノバクテリアの光合成によって作られ始めたのである。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る