分離カメラDCAM3は衝突の瞬間を捉えられるか
衝突の瞬間に、リュウグウで何が起こるのか? 「本物の小惑星で衝突実験ができる。科学者からすると垂涎の的」と、衝突装置・サイエンス担当で千葉工業大学惑星探査研究センター主席研究員の和田浩二氏は顔をほころばせる。
「太陽系の天体は、ダスト(塵)から惑星まで衝突・合体を繰り返して進化してきた。衝突現象を理解するのは惑星科学にとって重要な要素です」(和田氏)。太陽系が形成された約45憶年前、理論的には1mm以下から数kmサイズの微惑星が衝突・合体を繰り返し成長・進化したとされている。しかし未だ研究段階であり、完全に説明に成功できたものはいない。今回の衝突実験は世界で初めての実験であり、実証的に迫れる可能性があるという。
つまり、これは太陽系がどう作られたかに迫る、宇宙を舞台にした壮大な衝突実験なのだ。ポイントは2つ。衝突の瞬間、どんな放出物(イジェクター)がどの程度出てくるか。これはリュウグウの地下の状態を反映する。そして、どのようなクレーターがリュウグウにできるか、あるいはできないか。どんな速度や大きさの物体が衝突すればどんなクレーターができるかという、衝突物理モデルの構築につながる。
衝突の瞬間を捉えることが期待されるのが、円筒形の分離カメラ(DCAM3)だ。はやぶさ2がSCI分離後に逃げる途中、小惑星から約1km離れた地点で分離する。DCAM3には2種類のカメラが搭載されている。1つはリアルタイムで映像を送る低分解能のアナログカメラ、もう1つは高分解能画像を撮影するデジタルカメラで、主に理学観測に使われ衝突の詳細な現象を撮影する。カメラはバッテリーで約3時間働く予定だ。
分離カメラはリュウグウの横方向から衝突現象を撮像する。アナログカメラの画像はリアルタイムで探査機に送られるが、その画像はいったん探査機に保存される。探査機の安全のための作業が最優先されるためだ。さらに、分離カメラが置かれる場所は、リュウグウから約1kmしか離れておらず、非常に危険な領域だ。リュウグウからの噴出物が当たり「探査機本体の替わりに(カメラが)死ぬ可能性もある」(佐伯氏)。高画質の画像が撮れたら、ラッキーと思ったほうがいいかもしれない。