その“半端ない”爆薬を内蔵した衝突装置SCIは、円錐形で直径30cm、質量14kg(そのうち爆薬は5kg)。起爆すると、銅板がソフトボールのような球形に変形し高速で飛ぶ。最初の難関は、はやぶさ2から正確・精密にSCIを分離させること。探査機の位置、SCIを押し出す速度を「針の穴を通すような」精度で制御しなければならない。放出精度が悪いと、SCIが小惑星表面に落下してしまい威力が半減したり、小惑星に当たらない可能性がある。
分離40分後にSCIは起爆するが、40分間にリュウグウは自転する。約7時間半の自転運動を見越し、赤道付近の半径約200mの目標地点(S01)に衝突させるため、SCIを分離する時間も精密に決められている。これらを例えたのが「目隠しをした状態でやぶさめの矢を放ち、的を射るようなもの」という表現だ。
SCIという矢を放った探査機が、次に直面する難題が「逃げる」こと。爆薬を起爆すると、衝突体が飛び出すとともに、SCI全体が破壊され、多くの破片が四方八方に高スピードで飛び出す。破片から身を守るため、探査機は「小惑星の裏の“安全領域”に全速力で待避する必要」がある(ISASニュース2019年1月号より)。宇宙空間には隠れる場所はないため、小惑星リュウグウそのものの影に逃げるしかない。
リュウグウから約3.5km離れた場所に探査機は退避するが、目印もなく探査機は自分がどこを飛んでいるか分からない状態。例えば「この方向に1km」と決められたルートを逃げる。「人間でいうと、目隠しをしてJAXA東京事務所(千代田区神田駿河台)から(約4km離れた)浅草寺の境内にお参りするようなもの」(佐伯氏)。これら複雑な動きや装置類の分離も含めて、地上からの指示でなく探査機自身が自動で動くよう、プログラムされている。「本番で自動シーケンスが想定通りに行くかどうかが、一番難しいところ」と久保田孝JAXA研究総主幹は説明する。