しかし、だからといって中小企業で働き方改革が実現できないというわけではありません。ごく一部の会社は、働き方改革も進んでいます。
上手くいかない会社は、働き方改革の本質を見ないで取り組みを始めています。「働き方改革=労働時間削減」という発想で、「残業しちゃダメ」「6時には帰れ」と号令を発してしまうのです。
こういう取り組みが招く結果は目に見えています。まず社員が抱えている仕事が終わらなくなります。なにしろ、仕事の量は今までと変わらないのです。だから6時で退社しても、自宅に仕事を持ち帰ることになります。あるいは帰宅途中の喫茶店でパソコンを叩いたりしているかもしれません。
だから単に退社時間を早めさせただけでは、会社として体裁を保つことはできても、裏側で社員にしわ寄せが行ってしまいます。
有給休暇だって同じです。いくら社長が「有休をとれ」と言っても、社員の方は「俺がやらないと終わらないんだから」といって、出勤記録上は休んだことにしながら、実際は出社して仕事をしていたりする。
これが「働き方改革」が上手くいかない会社の典型例です。「うちは残業禁止、有休消化を社員に徹底させています」なんていう会社ほど、裏で社員が帳尻合わせをさせられている。これでは無意味どころか害悪です。
そこで、中小企業の社長さんたちには「働き方改革」の本質を考えてもらいたい。それは何かと言ったら「生産性の向上」なんです。だって、いままで10こなしてきた仕事を8に減らしていい、ということじゃない。仕事量は10のまま、労働時間を減らそうということなんです。とすると、社員一人ひとりの能力を高めなきゃいけないわけです。
「そんなこと分かってんだよ! じゃあどうすればいいんだ」
そんな怒声が聞こえてきそうですので、結論を急ぎます。最初に取り組むことは、まず「社員が離職しないようにすること」です。
輸血の前に止血を
最初にも書きましたが、そもそも中小企業は人手が足りないのです。しかし一方で、大企業に比べたら社員の離職率も高い。だから、社員を増やすことを考える以前に、社員が辞めないようにすることが大事なんです。
辞めずに働き続けてくれる社員は仕事のスキルも上がっていきます。経験値が増していきます。当然、生産性も上がっていくのです。逆に、社員の入れ替わりが激しいと、スキルの向上がなされず、それだけで生産性が下がります。ベテランを付けて教育係にさせたりすると、さらにベテランの生産性も下がってしまう、という悪循環に陥ってしまいます。だから誤解を恐れずに言えば、中小企業では、まず「辞めさせない」ことが大事なのです。
社員が辞めなければ、仕事はなんとか回ってきます。そこがスタートで、そこから業務改善が進み、そして「休みをどうしようか?」という話になるのです。そういう順番で進めずに、いきなり「休みを取れ」では失敗します。
ゆえに私は、支援先の会社に伺って、離職率が高いようであれば、まず辞めないような職場作りから始めてもらいます。「輸血する前に傷口をふさいで出血を止めろ」ということです。
そこで必要なのが、「社員教育」です。実例を出して説明しましょう。