セキュアベース・リーダーシップの特徴

『セキュアベース・リーダーシップ ――〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる』(プレジデント社)では、セキュアベース・リーダーシップに必要な9つの要素が挙げられています。

 その中から大野君の特徴に当てはまる要素がいくつもあります。具体的に解説してみましょう。

1.冷静でいる、傾聴し、質問する

 大野君には感情を露わにし、乱れまくるイメージはありません。いつも冷静です。情緒不安定に人は周りに不安やストレスを与えます。「課長のご機嫌がいい時に承認を貰いにいこう」と言われるような上司では失格です。これでは部下は安心できないですし、信頼を得ることも、今のご時世では厳しいでしょう。

2.人を人として受け入れる、いつでも話せることを示す

 大野君はいつでも、メンバーの意見を受け入れようとするスタンスで話しを聞いてくれるそうです。「俺だったら・・・」といった意見は挟まず、メンバーの個性と意見を尊重しながら受け止め、引き出してくれる、と嵐のメンバーがTVでコメントしていました。

「Aさんはこういうキャラだからな」と決めつけたり、一見アドバイスしているようでも自分が言いたいことだけを話したりする上司は信頼されません。「1on1ミーティグで9割話している上司がいて困る。それも本人は悪気がないので始末に負えない」という声をコンサルティングの現場でよく聞くようになりました。人が着いてくるリーダーにはビジョンを示す行動だけはなく、「俺たちを受け入れてくれる」と感じてもらえる周囲からの信頼感が必要です。

3.可能性を見通す、プラス面にフォーカスをする

 大野君は全く人の悪口を言わないそうです。そして、冷静に相手の良さを発見し、寄り添うスタンスで接しつつ、余計なおせっかいはしないと言います。

 欠点は本人が気づいているもの。そこに対するダメ出しは誰でもできます。でも、欠点も見せ方によりギャップとして魅力に変わります。「ビジョンを持てない」という欠点ですら、「柔軟性と素直さ」へと変換すれば魅力になります。

 人は安全に受けとめてもらってばかりでは進歩しません。自分の欠点や弱点を、愛情を持って指摘・ダメ出ししてくれる人がいてこそ、挑戦する気持ちになります。そこで優れたリーダーは、相手に安心を与えつつチャレンジする気持ちに切り替えさせるため、自分の意見は出さず、相手のマイナス要素の中のプラス面にフォーカスすることで自信とやる気を起こさせ、メンバー自ら動けるように後押しをするのです。

4.力強いメッセージを発する

 テレビの中の大野君は、「俺が、俺が」のぐいぐい系ではありません。その一方、ひとたび口を開けば、ウケるコメント、本質を突いたコメントをズバッと挟み込む抜群のセンスを持っています。話にオチをつけるのは案外難しいものですが、こんな仕事もサラッとこなしています。

 なぜ大野君はそんな芸当が出来るのでしょうか? 大勢の出演者の中で、自分が爪痕を残すことばかりを意識すると、どうしても自分のことばかりに意識がいくため近視眼的になってしまいます。常に力一杯なので余計なエネルギーも使います。他のメンバーと話す内容やタイミングが被れば余計な軋轢が生じます。

 しかし大野君はそうしたそぶりは一切見せません。大野君はまず場を読みます。メンバーや出演者、1人ひとりのキャラを把握した上で、場の流れを読むことに集中しています。こうすることでメンバーや出演者の良さを引き出すタイミングを掴むのです。副次的に、自分に振られるタイミングも読めるので、コメントを準備する心の余裕も生まれます。だから鋭いコメント、おもしろいオチが出てくるのです。

5.リスクを取るように促す、内発的動機で動かす

 嵐をはじめ、アイドルグループはキャラ被りをなくし、メンバー一人ひとりの個性を尖がらせます。一人ひとりの個性の根っ子の部分にはそれぞれ、「お金のためでも、叱られないためでもなく、やっていて楽しいからこれをやる」という分野・領域があるはずです。そうしたやる気を「内発的動機」と呼びます。

 大野君自身は、「リーダーとして何かいいこと言おう」「何かやろう」と肩に力を入ません。逆に力を抜いて、メンバーの言動全てを受け止め、受け入れる方向で接しています。メンバー側にしてみれば、大野君がそういう姿勢でいてくれるからこそ、自分で心のスイッチを入れることができるのです。そこでメンバーそれぞれの内発的動機が強力に働いているのです。

 人は、自分に命令してくる人には歯向かいますが、受け入れてくれる人に対しては、逆に「こちらから動こう」というスタンスで向き合うようになります。嵐のメンバーも、司会者や俳優など、それぞれ新しいチャレンジを経験してきました。そのすべてが成功したわけではないと思います。だけど、嵐のメンバーはさまざまな挑戦を繰り返してきました。それは大野君自身が嵐の活動をメインにし、個人活動に挑戦するメンバーが仮にそこで成功を収められなかったとしても、「嵐」の一員として活躍できる場を常に用意してくれていたからこそ可能だったチャレンジです。大野君は全員を静かに見守りながら、メンバー一人ひとりが個性を伸ばすチャレンジを支えていると言えるのです。