生物多様性を守ることは、我々の文化の多様性を守ることでもある。

 昔から、自然保護の文脈でよく語られる「生物多様性」。国連が定めたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)においても重要なテーマとなっているが、実は生物多様性を守る「本質」は、生き物の多様さを保持するだけにとどまらないという。

前回の記事:「世界が注目する『森林保全』という日本文化」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55244)

「生物多様性を守ることは、文化の多様性、人間社会の多様性を守ることにもつながります。このつながりはSDGsの根本思想であり、その点で日本は、SDGsを達成するための重要な役割を担っていると言えます」

 このように話すのは、環境学や持続可能な社会を研究する國學院大學経済学部の古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)教授。生物多様性と文化多様性のつながり、そして「日本の役割」とは何か。詳しい話を古沢氏に聞いた。

國學院大學経済学部教授の古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)氏。大阪大学理学部(生物学科)卒業、農学博士。NPO「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事、NPO日本国際ボランティアセンター(JVS)理事、(一社)市民セクター政策機構理事、國學院大學では2011年より学際的研究プロジェクト「共存学」のプロジェクトリーダーを務める。著書に『みんな幸せってどんな世界』(ほんの木)、『食べるってどんなこと?』(平凡社)、『地球文明ビジョン』(NHKブックス)、共著に『共存学1~4』(弘文堂)などがある。SB-Jコラム連載中。

「七草」から分かる、自然と文化のつながり

――前回、生物多様性を守ることは、文化の多様性を守ることにつながると伺いました。これについて詳しく教えてください。

古沢広祐氏(以下、敬称略) 端的に言えば、地域の文化は、その地域の動植物や自然環境に起因している点が多いということです。最たる例が「食文化」でしょう。たとえば和食は、今や世界的に注目される日本文化のシンボルですが、それは、もともと日本の自然が持っていた豊かさや恵みを活用する知恵から発生しています。

 一例として、日本には「七草」という文化があり、身近な春の七草は食用、秋の七草は観賞用などが知られていますよね。四季折々の自然の恵みを愛でる、これこそ生物多様性から生まれた日本文化です。しかし、秋の七草については、キキョウとフジバカマが絶滅危惧種に指定され、他も消滅が心配されており、もし絶滅してしまえば、その文化さえも途絶えるのです。

 今でこそ世界中で食材が流通していますが、もともとはその地域の農産物、自然の恵みとしての生物や植物によって地域の多様な食文化が形成されてきました。こう考えれば、生物多様性を守ることは、単に生物・植物そのものの保護だけでなく、文化の多様性を守ることにつながると分かるのではないでしょうか。その意味合いは風土という言葉でも感じとれますね。