現在の足尾・通洞地域と渡良瀬川。

 今や、企業が社会的責任を全うすることは、いかなる事業でも当たり前の責務となった。サステナビリティ(持続可能性)の概念が重要になる中で、地球環境や地域住民の生活を守りながらビジネスを行うことは、絶対に破ることのできないルールと言える。

 一方で、歴史を振り返ってみると、さまざまな事業活動が地域環境や地域住民に影響を及ぼし、公害として、今も問題として残っている事例がある。なぜこれらの問題は無くならないのか。そして、公害を無くすためには何が必要なのか。

「公害と向き合うとき、私たちは過去から学ぶことが必要です。大規模な公害を改めて見直すことで、企業のとるべき対応や振る舞い、あるいは公害を引き起こした時代背景や国策の影響が見えてきます」

 こう話すのは、國學院大學法学部の廣瀬美佳(ひろせ・みか)教授。公害問題などの視点から環境法を研究する同氏は、過去の事件から「今の企業がとるべき姿勢」が見えてくると考える。廣瀬氏の話をもとに、日本の“公害史”を振り返りたい。

國學院大學法学部教授の廣瀬美佳(ひろせ・みか)氏。早稲田大学法学部卒業。國學院大學法科大学院教授を経て、同大學法学部教授。近年は過払金問題や医療における代諾の問題を中心に研究を進めている。主な業績には、「医療における代諾の観点からみた成年後見制度」(田山輝明編著『成年後見人の医療代諾権と法定代理権』三省堂)の執筆のほか、渡良瀬川沿岸鉱毒農作物被害事件の公害等調整委員会昭和49年5月11日調停や熊本水俣病に係る障害補償費不支給決定取消等請求事件の最高裁平成29年9月8日判決の評釈などを担当。

長期化した公害事件、それを引き起こした企業の対応

――公害の歴史について、特にどのような点を学ぶべきでしょうか。

廣瀬美佳氏(以下、敬称略) 加害者側の事業者が「どう被害と向き合ったか」、また、被害者である住民や地域が「当時どんな状況にあったか」という点です。

 まず加害者側において、公害対策として行うべき2つの柱があります。「発生源対策」と「被害(者)の救済」です。前者は、これ以上の被害拡大を防ぐこと、あるいはそもそも被害が起きないように予防すること。後者は、起きてしまったことへの損害賠償が中心になります。