このような経済情勢を背景に、エスケープ・クローズの発動要件を緩和すると同時に、外国の不公正貿易政策について制裁措置権限を大統領に与える301条などが盛り込まれた、1974年通商法が成立したのである。

 さらに、1980年代後半には、米国が巨額な貿易赤字を抱えたことから、ゲッパート修正条項に象徴される貿易赤字相手国に対する議会の不満が募った結果、1988年包括通商競争力法が成立した。

 この法律により1974年通商法301条の改正・強化が図られ、外国の不公正措置に対して調査から制裁発動までの手続を自動化することを規定し、米国が一方的措置をとりやすくした。

 すなわち、他国の貿易政策・措置について、WTO(世界貿易機関)協定などの国際的に認知された手続によることなく、自国の基準・判断に基づいて「(WTO協定等)国際的なルール違反である」または「不公正な措置である」などと一方的に判定し、これに対抗する手段として制裁措置を取りやすくしたのである。

(2)法律条文の構成

 第301条は、1974年通商法のタイトルⅢ「不公正な貿易慣行の除去」の第1章「貿易協定の下の米国の権利の執行及び外国の貿易慣行への対応」の条文である。

 既述したが301~310条を総称して301条と呼ばれている。各条文の見出しは次の通りである。

第301条 米通商代表による措置(Actions by United States Trade Representative)
第302条 調査の開始(Initiation of investigations)

第303条 調査開始の協議(Consultation upon initiation of investigation)
第304条 通商代表による決定(Determinations by the Trade Representative)

第305条 措置の執行(Implementation of actions)
第306条 外国のコンプライアンスのモニタリング(Monitoring of foreign compliance)

第307条 措置の修正と終了(Modification and termination of actions)
第308条 情報の要求(Request for information)

第309条 管理(Administration)
第310条 通商上の執行措置の優先順位(Trade enforcement priorities)