4.来る米中首脳会談における「落としどころ」

 本項では、貿易赤字の削減や関税の引き下げなどの貿易問題の解決策でなく、本貿易戦争の背景にある安全保障上の問題やインテリジェンス活動を巡る米中の対立に焦点を当てて述べる。

 2018年11月14日、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は、中国の動向に関する年次報告書を公表。

 その中で「中国の国家主導の不公正貿易慣行は、ハイテク技術の流出につながり、安全保障上のリスクだ」と警告した(11月14日 時事通信社)。

 経済はパワーの源泉として安全保障に深くかかわっている。

 経済の繁栄は、経済力はもとより、技術力、軍事力といった国家のパワーを充実させ、反対に経済の衰退はかつての旧ソビエトのように国家の崩壊に至る可能性がある。

 これがゆえに、経済的手段によって安全保障の実現を目指す「経済安全保障」という概念が生まれたのである。

 すなわち、中国の経済力の発展は米国の安全保障上の脅威なのである。

 しかも、その経済力の発展が、米国の技術および知的財産を盗み、自分のものにして大きくなったとなれば、米国の憤りも理解できる。

 ちなみに、現在繰り広げられている「米中のインフラ支援競争」も「経済安全保障」の脈絡で捉えるべきである。

 中国は自国の情報機関を使って米国の技術および知的財産を盗んで国有企業または民間企業に提供している。

 インテリジェンス活動は国家の安全確保のために行われるもので、収集した情報を民間企業の経済活動のために提供することは考えられない。

 これは、民間企業の公正な競争を阻害している。

 公正は米国が最も重視する価値観である。ここに今回の米中対立の隠れたかつ根本的な原因がある。

 本年10月10日に米司法省が中国情報機関の幹部の訴追を公表したことも、これらの活動を絶対許さないという中国へのメッセージであろう。

 従って、来る米中首脳会議では、「中国が自国の情報機関による自国の国有企業または民間企業の経済的利益のためのスパイ活動(サイバー空間のスパイ活動を含む)をやめる」ことを約束すれば、さしあたって米中貿易戦争は沈静化すると思われる。

 しかし、2015年9月の米中首脳会談での首脳同士の約束をいとも簡単に反故にした中国に対して、この約束を遵守させ、その他の様々な義務の履行をきちんと担保する仕組みをどう構築するかという課題が残っている。